第20話 霧消

「ほんとひどいっすよ! 撃ちましたよね? ハルキさん!!」

 ものすごい剣幕で駆け寄るが、ハルキはいつものように面倒くさそうにあしらう。


「ちゃんと外しただろ? あの化け物狙ったに決まってんじゃねえか。お前、俺のこと信じてないの?」

「いや、そりゃ信じてますけど。でもハルキさん、人を騙くらかす天才じゃないっすか!」


「なんだよ騙くらかす天才って」

 二人のいつもの会話をあきれた顔で見ていたイッコとホリは、ハルキが撃った弾丸がニッタを貫通するのを確かに見ていた。しかし目を覚ましたニッタには傷一つなく何があったのかも覚えていないようだった。



「おい、そりゃあねえだろ。俺たちがイレイスしたんだろうが」

 その間にホリが見えるようになった鐘の回収を始めると、それに気づいたハルキがイッコに食ってかかる。


「あなた方にイレイスを依頼した覚えはありません。これは国家情報保安局の仕事ですから」

「ちっ。仕方ねえなあ。おいニッタ、いいか?」

「うーん、まああいつはキレイに消えていったんでいいんじゃないっすかね」

「お前も甘いなあ。ま、いっか。こいつは貸しだからな」


「何も借りはないと思いますが。まあいいでしょう。今回の件はそちらにも報告はさせていただきます。ただし」

 そう言うとニッタをチラと見ると、いつかきちんと話してもらいますから、と言い残し、ハルキのやる事だからと呆れたように去っていった。


 国家情報保安局の二人と別れたハルキとニッタは港に到着する。


「ハルキさん。結局あの鐘は何だったんすか?」

「ああ、あの時報塔な。時報塔じゃなかったの」

「ん? どういう事っすか?」

「地下施設があったろ? あれな、たぶん実験施設」


「実験施設?」

「ああ。たぶんカタデリー信仰の魔獣復活とか再生とかのな」


「そんで猿っすか?」

「たぶんな。他にも動物や人体使ってな。んで、周りに悟られないように時報塔って事にしといたんだろうな」

「で、あの鐘に憑りついたんすか?」

「ああ。そういうこった。見えなかった鐘も見えるようになったし、とりあえずこれでいいんじゃねえか。ま、鐘はイッコが持って帰っちまったし、情報は国家情報保安局がコントロールすんだろうけどな。情報は教えてくれるっつったけど、ホントのことは思えねえけどな」


「そっかあ。あ、そういえばハルキさん。あの猿の左肩から糸がたくさん伸びてきてたでしょ? あの時、いっぱいいろんな話が聞けたんすよ」


「ん? え? 話?」


「そうなんすよ。糸一本いっぽんから、痛いーとか苦しいーとか辛いーとか。鐘からも聞こえた気もするし。あんなの聞くと俺も辛いっすからね。ハルキさんがあの猿を撃ってくれたから助かったっすね」


「お前……」

「どうかしたんすか?」


「いや。何でもねえ。あ、そういえばさ、この島の名物って何だっけ?」

「えーっと確かなんとかって魚の料理でしたね」

「そっか、あ、お前、それ買ってきて。ツノダさんへのお土産にすっから」

「ええ? 今からっすか?」


「十秒でな。はい十! 九! はーち……」

「はーい!」


「急げよ! 船が出ちまうぞ!」

「はーーーーーい!!」


 そう言って走っていくニッタの向こうに、霧が晴れた青空と海が広がっている。

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