第19話 異形との戦い

「なんだ!? どうした、ニッタ!」

「わかんないっす。なんか出てきましたよお、ハルキさーん!」

「おい、下がれ! ニッタァ!」

 ハルキがニッタに駆け寄りながら叫ぶ。

 同時にイッコとホリは戦闘態勢に入る。


 見えない鐘の周りに黒いモヤが集まり形を成していく。

 それは人のようでありながら人ではない憑りついた者。


 頭は猿のような形状を持ちながら、体は毛深くゴツゴツとした獣そのものの姿をしている。その奇妙な存在は、手には巨大な金棒のようなものを持ち、左肩に鐘がプロテクターのように張り付いている様子が確認できる。


 異形の姿を目にしたイッコは、驚きと戸惑いを隠せず、言葉を失ってしまう。

 その存在の不気味さと妖しさが、部屋全体に張り詰める緊張感を一層高めていく。


 黒い影はゆっくりと立ち上がり、辺りを見回しました。


「グルルルゥ」

 と低くうなりホリと目が合った瞬間、その影は突然ホリに向かって突進する。


 ホリは冷静にそれをかわすと、右手に持った短剣を振り下ろす。


「キンッ!」


 甲高い音がして、ホリの攻撃が何かによって弾かれ、その衝撃に一瞬体勢を崩すが、ホリはすぐに立て直し、今度は逆手に持った左手の短剣を突き刺す。


「キンッ」


 と音を立ててまたも攻撃が弾かれ、異形の体当たりにホリは吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。

 激突の衝撃で部屋中、イッコは急いでホリに駆け寄り、体を起こして抱き抱えました。


 ホリの口元からは血が流れ出ていて、意識はあるものの腹部を強く打ったことで痛みに耐えている様子だ。


 ホリの肩を抱きながら立ち上がろうとすると、猿のような異形が向き直し、イッコと目が合うと、にやりと笑う。

 その瞬間、イッコは背中に強い衝撃を受けそのまま壁に押し付けられる。


「っち!」

 ハルキはイッコの元へ走りながら魔銃をかまえる。


 そして狙いを定め引き金を引こうとしたが、突然目の前に現れた別の影に邪魔をされる。ハルキが影に蹴りを入れ、影を引き離した隙にイッコの元に辿り着く。


「おいニッタァ! お前、お前はそこで鐘のバケモン見張ってろ!」

「はーい!」

 ニッタが返事をすると、ハルキとイッコは連携を取りつつ戦闘に復帰する。


 部屋の中には戦闘の音と緊張感が充満していく。


「魔導刃でも切れねえぞ! イッコ! どうすんだよ?!」

「想定外です。これほどの異形が存在するなんて」


「っち! しょうがねえなあ。おいニッタ!」

「はーい」

 ハルキの言葉で距離をとっていたニッタが異形に近づく。


「あ、あの子一人じゃ危なっ」

 しばらく異形の攻撃をかわしていたニッタの身体が青く光りはじめ、光が強くなると異形の動きが鈍くなっていき、ついには動きが止まる。


 ニッタが異形の正面に立ち手をかざすと異形の左肩の鐘からは無数の糸が伸びてきて、それがニッタの手の周りで円を描いている。


「なに? あの子、あれはいったい?」

「っち」

 イッコが呟くがニッタは集中していて聞こえていないようだ。ハルキは舌打ちをしてニッタを睨みつけている。


 ニッタが目を閉じて何かを唱え始めると足元を中心に白い魔法陣が広がり、やがて部屋全体を覆い尽くしていく。



 ハルキは諦めた顔をしながらニッタの後ろに回り込み、ゆっくりと引き金を引く。



 魔銃から発射された青い弾道がを打ち抜くと、すさまじい青い光が放たれ銃弾が猿の化け物の左胸を打ち抜く。


 猿の怪物は、その凶暴な吠え声を響かせながら、絡みつく霧の中で獰猛に暴れていた。

 その巨大な躯は、怒りと痛みに歪んでおり、周囲の空気を引き裂くような咆哮を上げ、霧の中から時折見える血走った目は、絶望と共に闘志を灯しているかのようだった。



 同時に、イッコの背後の影が霧散し、それと同時にニッタの体が傾く。


 ハルキは倒れそうになるニッタを受け止め、床に寝かせる。




 ゴ―――ン……


 ゴ――――――ン……



 姿を現した鐘がその重みを振り子のように揺らして宙を舞い、荒々しい音が広がる。


 鐘の音色が響き渡る中、猿の怪物の姿が次第に揺らぎ始め、その凄絶な叫び声が高まり、絶命の瞬間が迫る。痛みと怒りの象徴であったかのようなその姿が、やがて霧に溶け込むようにして消えていく。


 そして、ついに鐘が地面に落ちる音が響くと、世界が元の静寂を取り戻していく。その重い音が、鐘の余韻と共に響き渡り、周囲の風景が再びクリアな輪郭を取り戻していく。

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