第16話 町の調査

「それにしても、これは困ったものですね」

 イッコは腕を組み、顎に手を当て考える素振りを見せた。


「どうした?」

 ハルキが興味津々の表情で問いかける。


「いえ、実は私たちも先程までホリと共にこの町を調査していたのですが」

 イッコの声が小さくなり、不安が滲む。


 風がそよそよと町の小道を吹き抜け、街灯の明かりが微かに揺らめいている。夜の闇がじわりと迫り、街の喧騒が遠くに感じられる。イッコとハルキは部屋にかけてある時計の針を見つめていた。針は深夜の時間を指し示し、まだ何も起こる気配はなかった。


「この町でカタデリーに関わる不可解な事件が発生しているようなんです」

 イッコが困惑した表情を浮かべながら語るとハルキは眉をひそめる。


「確かにこの町で奇妙なことに巻き込まれちまってりみてえだがよ」

 窓の外の町は静まり返り、寂寥(せきりょう)とした雰囲気が包み込んでいるように見える。


「ちょっとまて。今国家情報保安局は『奇跡の剣』で手一杯なんじゃないのか? なんでお前こんなとこにいるんだ?」

「そ、それは。こちらの町のカタデリー教団への対応を任されてですね」

「ああ、あれか、こないだミイラ燃やしちゃったからか」

「ち、ちがぃ」

 イッコは焦りながらも、なんとか言葉をつなぎ合わせようとする。


「いいっていいって。ごめんな、おじさん、気ぃ使えなくて」

 ハルキの口調はいつものように軽く、しかし、その目には深い憂いが宿っていた。


「くっ…… 話を戻します! それでですね、この宿にも他の建物の中にもカタデリー教の痕跡は一切ありませんでした。あまりにもなさすぎるんです。町全体でカタデリー信仰の情報が隠蔽されている可能性があります」

 イッコの声には、不安と戸惑いが交錯していた。彼女は信頼していた国家情報保安局ですら町のカタデリー信仰に関する情報を得られない状況に戸惑いを感じていた。


「ふむ、確かにな」

 ハルキはいつものように軽くなじんだ口調で返してくれるが、その眼には共感と覚悟が宿っていた。


「ですのでホリと連絡を取り、引き続きこの町の誰がカタデリー信仰の情報を操っているのかを探っていくつもりです」

「なるほどなぁ。んじゃあよろしく。俺らは帰るところだし、別に依頼でもなんでもないから。一般市民が情報を国家に提供いたしました、お終い」

 ハルキの言葉にイッコは少し微笑んだ。


「そうですか、わかりました。本当におとなしく帰ってもらえるんですね?」

 イッコの言葉には疑問が込められていたが念押しするようにハルキを見ると軽く笑い、当たり前だろと言ってひらひらと手を振った。

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