第11話 古い時報塔

 次の日の朝も霧は晴れず、女将の話ではこの様子だとクリブリーの港から船は出ないだろうとのことで、仕方なくもう一泊することに決めた。


「ハルキさん、昨日の夜もやっぱり聞こえましたよね? 鐘の音」

 朝食をとりながら、ニッタはハルキに尋ねる。


「ん? 聞こえなかったけどなあ。女将さん、この街の教会は?」

 ハルキは首をかしげながら食事を運ぶ女将に尋ねる。


「この町に教会はないけどねえ、一番近いのはロッキングの教会だねえ、鐘の音なんてとんと聞いてないねえ」

 女将は少し頷きながら答える。


「だよねえ。そんなとこの鐘の音はさすがに聞こえないわなあ」

 ハルキはあまり気にしていないようだが、ニッタは気になる様子で鐘の音の謎を考えている。


「気になるっすねえ。俺、ちょっと調べてみるっす」

「お前も物好きだねえ。まあ、好きにすりゃあいいけどな、どうせ暇だし」

 ニッタは興味津々で町に出て情報収集を始めることとした。


「んじゃあ俺は今日一日のんびりさせてもらおうかね」

 ハルキはそう言ってニッタを見送った。


 △ ▼ △ ▼ △ ▼


 三時間ほど経った後、ニッタが戻ってきました。


「どうだった?」

 と尋ねると、ニッタは首を横に振りながら


「いや、どうも何もなさ過ぎて逆におかしいんすよね。この町にはもともと教会がなくて隣町の教会を利用してたみたいなんすけど、もともとこの町にあったのは墓地と時報塔だっていうんっすよ」

 と部屋に入ってきて椅子に腰かけました。


 ニッタの話によると、この町に住んでいる人々のほとんどが漁業で生計を立てており、他の町との交流があまりないということだ。



「なるほどな。ただ、その時報塔は今は使われてねえんだよな」

 ニッタの話を聞き終えるとハルキが考え込むように言います。


「そうなんすよ。町外れにある丘は昔っから墓地になってて、その奥深くに昔は立派な時報塔があったんですって」


「んで、今は使われていないってことか」


「ええ、昔は街の中心で重要な役割を果たしていたみたいなんっすけど、使われなくなってるんですって。建物自体は今もあるみたいなんすけど、墓地の奥深くにひっそりと佇んでいるんだって」

 とニッタが語る。


「なんでそんな重要な建物が放置されてる? 何か理由があるのか。迷子になっちまったけどこりゃあ当たりかもしれねえな」

 とつぶやく。


 ニッタが聞き込みをした住民全員が鐘の音を昔、聞いている。しかし一人として今は鐘の音は聞いていないという状況らしい。


 ニッタは地図を指差しながら


「ここっすね」

 と確認した。


 ハルキは腕組みをして眉をひそめながら何かつぶやくと、


「じゃあちょっと行ってみっか。って、そもそも俺には聞こえないけどな。その時報塔ってのが気になる」

 と言って立ち上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る