第10話 バクトンの町
バクトンの町は帝国の中でも辺境ミャスト島内にあるため人口も少なく、大きな店などもない。かろうじて旅人を泊める酒場、食事処を兼ねる宿屋が一軒だけ存在する。
その宿屋でこの町の名物と言われた魚料理を食べ、ニッタは上機嫌で酒を飲んでいる。
「助かったっすねえ、宿屋があって。いやほんと、こういう悪運は強いっすねえハルキさん」
「悪運ってなんだよ。まあ飯にありつけたのは助かったけどな」
「しっかしあんな偽物だとは思わなかったっすねえ。プロデューサーの話だと結構ほんとっぽかったのに」
「ツノダさんに騙された感しかねえな、んで? 他の奴らはどこだって?」
「ああ、モートンで奇跡の剣のイレイスって言ってました」
「嵌められたな、ちくしょう」
ハルキは騙されたことに苛立ちを感じジョッキの酒を一気に飲み干す。
「仕方ないっすよ、ハルキさん。遺物まで『ない』物にしちゃうんすから。プロデューサーがいつも言ってるでしょ? 過去の遺物(魔道具、武器や防具)の中に稀に『ある』者が憑りついている。イレイサーの仕事は憑りついている者の存在を消して、憑りつかれている遺物を通常の遺物に戻すことだあ、って」
「うるさいよ、お前からツノダさんのセリフなんて聞きたくもないよ。なにがカタデリー信仰の遺物だ、大ウソつきめ。ロッキングの町にはカタデリー信仰のカの字もなかったじゃねえか。だいたいなんでこんな島に教団の重要施設があるんだよ、そんなわけねえよなあ」
ハルキは怒りが高まる中、酒を煽るように手に持ったグラスを揺らす。
「でも信じたからこっちに出向いたんでしょ?」
「信じたっちゃ、まあそうなんだけどな。仕方ないだろ、あのおっさん。ハルキハルキって何回も見つめながら叫ぶんだよ。しっかしどうりで今回は国家情報保安局が出張ってこねえはずだな」
微かな悔しさが感じられる。
「まあいいじゃないっすか、偽物でも報告報酬は出るんですから」
「はぁ。お前はいいよなあ、いつもお気楽で」
ハルキからため息が漏れる。
そんな話をしていると宿の女中がにこやかにテーブルに酒を置きながら、お連れの方は本土の方ですか? と尋ねてきた。
「ああ、そうっすよ。」
とニッタはグラスを手にして振り返り答え、ハルキは「ああ」とだけ返す。
「めったに都会の人は来ないんですよお。」
と色目を使いながら女中が話しかける。
二人は島の人々とははっきりと異なる風貌をしている。
ハルキは紺のスーツに身を包み、ネクタイの代わりにスカーフを巻き、薄いサングラスをかけ、黒い手袋。一方、ニッタは全身を茶色のスーツでまとい、ハンチング帽を被っている。
ハルキは冷たく答えるが、女中はなぜか「まあ」と声を上げて顔を赤らめている。
そんなこともあったが、明日には霧も晴れ、港に向いて帝都に帰るだろうと、二人は何の疑問も抱かずに眠りについた。
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