バグトンの見えない鐘
第9話 鐘の音
ゴ―――ン……
ゴ――――――ン……
深い霧が私たちを包み込み、不気味な静寂が漂っている。そんな中、どこからともなく時を告げる鐘の音が微かに響いてくる。
「おい、ニッタ。なんでこんなことになってんだ?」
「すごいっすねえ、霧。なんも見えないっすねえ、これじゃあ進めないっす」
「そうじゃねえよ。いや、そうなんだけどさ。霧はすごいよ、そこじゃないんだよ。どうして俺たちはこんな所に立ち往生してんのかって聞いてんの!」
霧が二人の前に未知の領域を広げ、進む先が見えなくなっている。
「そりゃあ俺がどっちに進みます? って聞いたらハルキさんが島なんだからどっちに行っても港に着くだろうって言ったからでしょ」
「お前その時ガンガンに音楽を鳴らしてたろ。デビュー五十年の歌手の歌、しかもデビュー曲から順番に! あれでげんなりしてたんだよ!」
「当てましょうか?」
「ん?」
「好きな曲、当てましょうか?」
「話が変わってんだろ? なんでこんなところに立ち往生してんのかって言ってんだよ」
イレイサーであるハルキとニッタは帝国北西にあるミャスト島ロッキングの町での活動を終えクリブリーの港に向かう途中、霧に包まれ立ち往生している。
「仕方ないじゃないっすか、この霧ですもん。いやあ、しっかし今回のはひどい偽物でしたねえ」
「ああ、ほんとだよ。ちくしょう、やっぱりガセだったじゃねえか。ツノダさんの言うこと聞くとろくなことにならねえ」
「まあ仕方ないっすよ、それがオレらの仕事なんすから。プロデューサーも悪気があったわけじゃないっすよ」
「なにが、『今回はきちんとイレイスしろ!』だ。んでなんだよあの偽物。明らかに年代が若かったろうが。ちゃんと下調べしてから俺たちに回せって。なあ」
ニッタの方はあまり考えていないようだが、偽物の「遺物」のせいでハルキはご立腹だ。
「ハルキさん、なんか鐘の音が聞こえません?」
「ん? 気のせいだろ。聞こえないよ、お前がかけてる歌手の歌しか」
「そうっすかねえ?」
「そうっすかねえ、じゃねえよ。なんとかしろよ、どうすんだよ、このままじゃ俺たち失踪者扱いされちまうぞ」
ますますハルキはイライラしている。
「えーっと、『春よ来ぬ』でしょ?」
「ん?」
「好きな曲、『春よ来ぬ』ですよね?」
「べ、別に好きじゃねえよ」
「うっそ。でも口ずさんでましたよね?」
「中には好きな曲もあるよ。って、あー、もう! どうせ魔導車動かないしな、おいニッタ。ちょっとジュース買ってきて。十秒で」
「ええ? この霧の中っすか?」
「はい、十! 九! 八……」
「はーーーい!」
と魔導車を飛び出すニッタ。
しばらくしてニッタが戻ると
「ハルキさん、この先に町があったっす! もう遅いし、今夜はそこに泊めてもらいましょう!」
こうして二人はバクトンの町に辿り着いたのだった。
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