第8話 後日、事務所にて

「んで? 結局国家情報保安局のイッコだっけ? なんだったの?」

 とぼけた顔でツノダが尋ねる。


「あのねえツノダさん。そんなこと俺に聞いてわかるわけないでしょ?」

 ハルキは微笑みながら答える。


「でもお前、元々知り合いだったんだろ? イッコとホリ」

「まあね。ま、雇い主の秘密なんて知らないほうがいいすよ、きっと」

「そうかなあ?」

 納得いかない顔で言う。


「で、ツノダさん。なんで鍋なの?」

「ん? そりゃお前、区切りがついたら鍋だろ?」

「さっぱりわかんないよ。で? この鍋何入れんの?」

「んー、ボアだな。あと芋」

「ふーん、うまそ」

「それにしてもニッタ遅いなあ」

「十秒でって言わなかったでしょ?」

「だって買物十秒じゃ無理じゃん」

「言ったら早くなるんすよ」

「マジで?」

「マジで」

 二人はそんな会話をしながら今回の事件を振り返っている。


 今回のミイラ騒動についてハルキの調べでは、博物館職員のハイアットが仕組んだものであった。


 このミイラは邪教と言われ、すでに消滅したカタデリー信仰の神官オルサス・ゲーリングの成れの果てと確実視されている。その際、ミイラと一緒に装飾品も発掘されているのだが、ハイアットがそれらを使ってカタデリー信仰を復活させようとしていたと考えられ、カイトウ館長はそれに巻き込まれミイラに取り込まれたのだ。


 遺物の憑き者を落とすイレイサーの仕事はどうしてもカタデリー信仰と対立することが多く、今回は国家情報保安局が直接動いて手を下したのだ。イレイス指令自体はミイラに対する真偽だったため今回はブッキングしてしまった。


 そしてイッコの涙についてはハイアットもイッコも、もともと帝都大学の考古学を専攻していた級友だったことを考えると学生時代に何かあったのではないかと考えたくなるがこれはあくまで想像でしかない。


「あれだな。結局ミイラ騒ぎも納まって博物館もミイラも静かになってるそうじゃないか。きっとあれだな、館長が仕組んだんだな」

 ハルキはツノダに動くミイラはガセだったと報告している。実際は国家情報保安局が後始末の際、精巧なレプリカを置き博物館を元の状態に戻している。


「そうすねえ。まあわかんないすけど。さてと、俺も働こうかなあ」

「なんだよ、も、って。なに? も。しっかし遅いなあ、ニッタ。あ、お前、ニッタを毎回盾にするの、あれ、かわいそうじゃない?」

「まあ仕方ないっすよ、あいつの体質ですからねえ。魔法を増幅して吐き出す奴なんてそうそういないっすからね。ほんと助かりますわ」

「本人その体質の事、知らないんだろ? 悪いなあ、お前」

「知らないほうがいいことも世の中にはたくさんあるんっすよ」



 そこにちょうどニッタが帰ってくる。


「まいったっすよお、下の店、売り切れ続出。なきゃいけない物がぜんぜんないんすから。あ、そういえばハルキさん、最近ペイドルの町で死体が消えてるらしいっすよ。噂じゃあ亡霊の仕業って話っすよお」

「ふっふっふ。そうか、そりゃあ誰かに直接イレイスされたのかもな」

 そういうと窓から外を見ながら言う。


「さあて、次は何を消しましょうかね」

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