第3話 動くミイラの噂

 オーフィア帝国歴1235(聖王歴2022年)


 小都市イハインにはグネトラス考古学博物館があり、その規模は立派で見るものを飽きさせない。博物館はホテルやレストラン、図書館、映画館、ショッピングモールなども併設され、この街は一大観光地に成長していた。


 そして、この博物館の最大のウリは、旧帝国歴108年(聖王歴878年)にバフタ共和国とキディン帝国の間の海域に一時的に浮上して沈んだ島、イシヌ山で発見されたミイラであった。

 ミイラの発見以来全く興味を持たれなかったのだが、最近になってある噂が広まった。博物館に展示されているミイラが動き出したというのだ。

 館長はこの噂を否定しているが、地元メディアが持ち上げ始め、百年以上も前のミイラが再び脚光を浴び、博物館の入場者数も増え続けている。


「どうするんだね、ハイアット君」

「どうするとは? あのミイラが脚光を浴びて来場者も増え、博物館にとってはいいことずくめではないですか。カイトウ館長、もう後戻りはできませんよ」


「し、しかしハイアット君。ここまで大事になるとは言ってなかったじゃあないか。このままでは国家情報保安局も動き出すぞ。イレイサーなどに来られたら、博物館の所蔵品がどれほどの被害を受けるかわからんぞ」

「大丈夫ですよ、彼らだって国家に雇われたただの犬。我々の計画が表に出ることはありませんよ。もしもイレイサーが現れたときの対策案も考えてあります。お持ちしましたので目を通しておいてください」

 ハイアットは自信に満ちた笑みを浮かべ、カイトウに対策案を差し出す。


「このままあいつらが黙っているとは思えないが、まあいい。この案で凌ぐほかないようだ」

 カイトウは諦めのような感情を込めて、対策案に目を通す。



 館長室を出て自室に戻ったハイアットは得意げに言う。

「まあ、いいさ。これもまた計画通り。これで私の地位は揺るぎないものになる。バカな館長にミイラのことは任せて、これでやっとあの遺物が私のものになる」

 ハイアットはニヤリと笑みを浮かべ、自らの野心を胸に秘める。

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