第2話 ゲームとリアルの境目


 何故か俺は泣いていた。涙が頬を伝うだけのような泣き方ではない。泣き散らかしていた。「オギャー」と……え?


「奥様お疲れ様でした、元気な男の子ですよ!」


「嗚呼、こんなにも泣いて元気な子。私とジェームズの子供なのね」


 そんな会話が耳に入ってくる。


「それでは旦那様に伝えて参ります」


「ええ、お願いするわ」


 見る事は出来ないが一人部屋から出て行ったのが何となくわかる。

 俺は誰かに抱かれており、周りには一人か二人おり皆から嬉しそうな気配がする。


「あら、もう泣き止んだのね。私が貴方のお母様よ。これからよろしくねオスカー」


 俺を抱いている人物からオスカーと言う名が出てきた瞬間心臓が跳ね上がる。


 オスカー? 何処かで聞いた事がある……。確か、俺がソフィア様を託した男の名前だったはず。

 そうだ! ソフィア様はどうなった!? 幸せになれたのか? それともクソみたいな開発陣はやっぱり信用出来ない奴等だったのか?

 くそっ、[オスカー・ウィリアムズで始める]を選択したまでは覚えてる。その後どうなったんだ? 気付いたら赤子のように泣いてたが……。


 そう思いながら状況を把握しようとした時だった。外から誰かが走って来たそのままの勢いで扉を開きすぐ側に現れた。


「レイラ! 無事に産まれたと聞いたぞ! おおこの子が私達の子供か! 私がお父様だぞ! ほら言ってみろ! お・と・う・さ・まだ! ほら早く! お父様大好きだと言うのだ! さあさあ!」


「旦那様少し落ち着いて下さい。産まれたての赤子に出来るわけがないでしょう」


「え? あっ、そ、そうだな、その通りだ、ああその通りだ」


 近くでいきなり大きな声で話しかけないで欲しい。折角泣き止んだのにまた泣いてしまったではないか。「オギャー」……あれ?


「もうジェームズが大きな声出すから泣いちゃったじゃない! ごめんねオスカー」


「す、すまん。つい嬉し過ぎて取り乱したようだ」


「嬉しいのは分かるのだけどもう少し落ち着いてね。ほらジェームズもオスカーを抱いてあげて」


 そう言って俺を抱いていた人物が興奮冷めやらぬ人物に俺を渡す。


「おお……無事に産まれて来てくれてありがとう。私はジェームズ・ウィリアムズ。お前のお父様だ。そして君の名前はオスカー、オスカー・ウィリアムズだ。オスカーには美人のお姉さんが一人居るんだぞ。お兄さんは居ないがな。だからお前が将来ウィリアムズ家を継いで……」


「ジェームズ? オスカーはまだ産まれて一時間も経ってないのよ? 何を言ってるのかしら?」


「い、いやしかしオスカーが我が家を継ぐのは当然の事でだな」


「今それをオスカーに言う必要あったかしら? 無いわよね?」


「はい、無いです……」


「それじゃあオスカーを返して? そしてオスカーの可愛くて美人なお姉さんを連れて来てくれる?」


「そ、そうだな! 急いで呼んでこよう! 私自ら呼びに行こう!」


 そんな会話を聞きながら俺は嫌な汗が流れていた。


 嘘だろう? どう考えても俺の事をオスカーとして扱っている。そしてジェームズとレイラにウィリアムズ家とくればもう間違いようも無い。

 はぁ、俺は遂にソフィア様の幸せのためにオスカーになる夢まで見るとはキツいな。しかも結構リアルだ。

 オスカーはゲームでは回想シーンで確か一番若くても三歳か四歳の時の話がチラッとあったくらいだったはず。にも関わらず出生時から夢として見るのはダメだろ。ゲームのやり過ぎか? 目が覚めた時結構ダメージ深そうだ。

 ゲームとリアルの境目がわかんなくなってるのかなぁ。


 なんて事を思っていたらまた扉が勢いよく開かれた。


「お父様! そんなに勢いよく扉を開けてはダメです! オスカーがビックリしてしまいます!」


「す、すまん。だからお父様をそんな目で見ないでくれ」


「お父様、謝るのは私ではなくてオスカーにでしょう?」


「そ、そうだな。すまないオスカー」


 声や話の内容から察するにジェームズとその娘でありオスカーの姉が部屋に入ってきたのだろう。

 なんだかジェームズは謝ってばかりな気がする。ウィリアムズ家は女性の方が強いのだろう。そんな設定あったっけかな? 夢だから俺の勝手なイメージに引っ張られてるのかな?


「初めましてオスカー。私はアリス。オスカーのお姉さんでオスカーって名前は私が付けたのよ! 気に入ってくれてたら嬉しいわ! これからよろしくねオスカー」


 とても可愛らしい声で挨拶をして来たのはオスカーの姉のアリス。

 確か二つしか歳は変わらなかったはずなんだが……本当に二歳児か? 天才幼女か? いやこれ夢だったわ。流石に二歳児がこんな会話してたら引くわ。


「わっ、私の指をオスカーが握ったわ! カワイイ! もう大好き!」


「オスカー、お父様の指も掴むんだ! さあ! 思いっきりギュッと握りしめるのだ! ほら早く! アリスだけというのはズルいぞ!」


「ジェームズ? 貴方だけ部屋から出て行く?」


「え……あ、いやその、ごめんなさい。だから、その、もう少しここに居させて下さい」


 いや弱いなジェームズ! お前公爵家当主だろ! マジか、家ではこんなだったのか……。なんか悲しいわ。夢でもこんなジェームズは見たく無かった。


 ジェームズが弱々しく沈んでいるとコホン、と誰かが咳払いをした。


「出産されて奥様もお疲れでしょう。それに本来であれば皆寝静まっている時間です。明日に響かないよう今日のところはもうお休みされるのが良いのでは無いでしょうか?」


「それもそうだな。少し名残惜しいが明日もまた会う事は出来るしな。アリスもいいな?」


 しかしジェームズの問いかけにアリスは答えない。


「え、アリス?」


「あら、もう寝てるわね。なんだかんだ言ってもまだ二歳だものね」


「よかった、寝ていただけか。この歳で反抗期かと思ってしまったよ」


 結局アリスはそのままレイラと共に寝る事になり、部屋から退室したのはジェームズだけであった。

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