転生しても君が好き~ハッピーエンドルートは俺の手で~
ミギニール
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第1話 プロローグ
『久しぶりに貴方の笑顔を見ることができましたわ……ただ生きている間に見たかったですが……』
彼女の目の前には最愛の人の亡骸が転がっていた。
『何故、何故たった一言……ついて来いと……あの時言ってくれなかったのですか……』
死んでしまった彼の最期まで隣にいる事が出来なかった悔しさが後悔と共に押し寄せてくる。
ある日突然婚約を破棄しようと告げられ、彼女の気持ちや意思に関係無く、両家の合意の下、一週間もすればただの他人になっていた。
二人は物心つくかつかないかという程にまだ幼い頃婚約したので十年以上も婚約期間があった。
彼女は一年後には彼と共に学園を卒業、そのまま結婚すると思っていた。
しかし現実は違った。
彼女は何が何だか正直わからなかった。頭の中が真っ白になっていた。
親同士が決めた政略結婚ではあった。彼は公爵家の嫡男であり次期当主、彼女は侯爵家の長女と家柄も問題ない。
寂しかったり辛くて落ち込んだ時は彼だけが気付き何も言わずにただ側に居てくれた。
そんな優しくも不器用な彼を支えられるよう、次期公爵夫人として恥ずかしくないように人一倍努力した。
なのに婚約破棄された。
そして極め付けは彼との最後の会話。
『な、何故婚約破棄などと……』
『うるさい! もう二度と話しかけるな! 近寄るな! 僕の前に現れるな!』
彼女に一度も見せた事のない表情と怒声で一方的に話を終わらせると此方を一瞥もせず彼は帰っていった。
今までの努力とそして彼と過ごした幸せだと思っていた日々はなんだったのか。私の勘違いだったのか。そんな事は無いと言いたいけれど、先程の態度を見せられては難しい。
嗚呼、こんな気持ちになるならば優しくしないで欲しかった。
特別な人として接しないで欲しかった。
気づいた時には涙が溢れていた。
泣き止んだ時には一生分の涙と共に一生分の幸せも出ていってしまったと思い、また泣いてしまう。
彼女は彼のことが本当に好きだったのだなと思い、しかしまだ好きで好きで堪らないのだと気付く。
そんな昔の事を思い出しながらふと気付く。
『これは……ふふ、まだ持っていてくれたのですね』
それは彼女が初めて送ったプレゼント。幸運を呼ぶと当時流行った御守りである。
『笑顔で亡くなったのだから御利益はあったみたいね』
そう彼女は苦笑する。
そして彼女は自分のポケットから同じ御守りを取り出し胸元でギュッと強く握りしめる。
『できる事ならば生きた貴方にもう一度会いたかった……そんな幸運が欲しかった……』
-End-
「えっ、終わり? はあ!? 此処で終わり? ふざけんなよ! 結局幸せになんねぇのかよ! ソフィア様はハッピーエンドねえの? はぁぁあああ? 開発陣はソフィア様に親でも殺されたんか? はあ!?」
彼はキレた。とてつもなくキレた。今やっていたゲームのソフィアというキャラクターの事が様付けしてしまうくらい大好きだからだ。
ソフィアはテイラー侯爵家の長女として生まれ、公爵家との政略結婚の駒として選ばれる。そしてその婚約者と政略結婚ではあるものの、少しずつ愛を育みこのまま幸せになるんだろうと思った時に婚約破棄されてしまう。そしてこの婚約者だった男は一年後このゲームの主人公の手により死んでしまう。
実はこの婚約破棄はソフィアを守るための物だった事が後にわかるのだが、それでもソフィアファンはキレた。主に開発陣と主人公に。
はっきり言って主人公やヒロイン達よりソフィア達二人の方がファンが多く、ファン投票では男性向けゲームという事もありソフィアが断トツで一位ではあるものの、二位はソフィアの婚約者であるオスカーという男キャラだったりする。オスカーの方がヒロイン三人合わせた票数より上だった時は本当に男性向けゲームなのか?とプレイした事のない人達は困惑していた。
報われて欲しい、少しでも救いがあって欲しいと思い、特に好きでも無く思い入れもないヒロイン全三キャラそれぞれのハッピーエンドとバッドエンド、全員一緒のハーレムルートのハッピーエンドとバッドエンドをそれぞれ攻略して初めてプレイ出来るソフィアルートをするほどみんなソフィアが大好きだった。
因みに彼はソフィアルートを二桁は見ていて、そして攻略後は毎回キレていた。
そもそもこのルートはソフィアルートと言いながらも、実際にはハーレムルートかつハッピーエンドのソフィア視点での話というだけで、ソフィアに感情移入させるだけさせて結局報われない、主人公達が幸せになるのを見せつけられ好きな男が殺されるソフィアファンブチ切れルートだった。
「はぁ、選択肢一切無いから分岐させて幸せに〜とか出来ないしマジなんなの? 唯一ソフィア様が報われたというかさ良かったねと思えるのはオスカーがお揃いの御守りを最期まで肌身離さず持っていてくれてた事くらいじゃねぇか! それくらいで許されると思うなよ開発陣!」
ここまで毎回開発陣に文句を言うのが最近の彼の寝る前に行うルーティンだった。
しかし今日の彼は違った。
「よし、今度こそハッピーエンドまではいかなくてももう少し救われる話になってると祈りもう一回やるか」
何度やっても一字一句話は変わらないゲーム。故に結末は何度やっても同じ。祈るだけ無駄であり、意味の無い行為……のはずだった。
「え? [オスカー・ウィリアムズで始める]って何だ? 今までスタート画面にこんな選択肢無かっただろ……無かったよな……? え?」
初めて見る選択肢。困惑したが遂にソフィアが幸せになれるかも知れないルートが現れ興奮してしまう。
「キタキタキタキタキタ! 信じてた開発陣! 俺だけはやると思ってたよ開発陣! やっとソフィア様幸せになるー? なるよな! いやしてみせる! マジ頼んだぞオスカーと開発陣!」
そして彼は掌をギュンギュン回しながら[オスカー・ウィリアムズで始める]を選択したのだった。
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