第12話 春の夢(12)

 ユメはまだ泣いていたが、虎児と目線を合わせた。すると虎児は以前と同じく、水色の羽織の袖でユメの頬を拭いてくる。


「……俺は、女が泣いたらどうしていいか分からねぇんだ」

「え?」

母親カカもよく泣いていた。でも俺は何もしてやれなかった」

「お母さんが泣いていたの?」

「カカは、父親トトのことを嫌っていたからな」

「!」


 ユメはハッと固まった。


「どうして嫌っているのか、理由はいまだに分からねぇ。カカは、ほとんど俺とも話をしてくれなかった。……それでとうとう、カカは竹林から逃げちまった」

「逃げた?」

「去年の秋のことだ。カカはトトの目を盗んで、どこかへ消えた。トトは怒り狂って、カカを探しに行った。そのまま2人とも戻ってこねぇんだ」

「……そうだったの。だから竹林で1人暮らしていたのね」


 少し間を置いて、虎児は頷いた。

 さらに少しの間を空けて、ユメは尋ねた。


「虎児さんは寂しいですか?」

「っ!」

「〝竹の怪は人間が嫌いだから、人間を驚かしている〟って商人たちから教えられたけど、それは違うような気がしてきたわ」

「何?」

「確かに貴方は人間にいたずらをする。そして〝お父さんとお母さんがいなくなって退屈だから、人を揶揄って遊んでいる〟とも言っていた。けど、絶対に暴力は振るわないわ。今も私を助けに来ててくれた。……本当は、人間が好きなの?」



 今度は、虎児が固まる番だった。

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