第4章 願いの代償

第25話 ALICEのお父さん

桑元教授を待っている間に衛の携帯電話に指定した荷物を持って松原中央公園に来てくれる様にメールを入れる。その間に靴をローラーブレードから安全靴に履き替えて、ローラーブレードやヘルメット、肘当て、膝当てをは外してまとまとめてリュックサックに入れる。

周囲を警戒しながら歩いてくる人がいる。毒島教授の手の者かなど警戒しながら、話しかける。

「桑元教授ですか?」

「あぁ。そうだ。君が藤堂隆一君かね?」

「はい。ALICEの事なんですが?」

「もちろん、理解している。見せてくれないか?」

リュックサックからALICEを取り出して、桑元教授に見せる。

十五分くらいALICEを桑元教授は触っている。反応が無いらしい。

公園の近くに車のライトが見える。

携帯電話が鳴る。衛からだった。

「ついたぞ、兄貴」

「桑元教授、弟が来ました。車の方に移動しませんか?。発電機もありますので、ALICEの充電もできると思います」

「それは助かる。移動しようではないか」

そう言うと二人で衛の待つワゴンRにいどうした。

俺は後部ドアを開けると、発電機を動かし、リュックサックの中のALICEの充電用ケーブルとコンセントを繋いだ。

桑元教授はカバンの中から大型の外付けハードディスクとUSBメモリを取り出してALICEに接続した。外付けハードディスクのコンセントも発電機に刺した。

桑元教授はそれから、ALICEを立ち上げ、何かキーボードで打ち込んでいく。

俺はその操作を見守っている。

・・・

・・・

・・・

五分もしただろうか、ALICEが立ち上がった。

「だいぶ仮想メモリもアプリケーションソフトも消えているね。ALICEはいらないデータやプログラムを消したり、足したりする自己進化プログラムを打ち込んでいるからだろうが。隆一君、君との会話を際限なく記憶していくのだろうね。今のじょうたいでも危ない。一応記録に関わる部分は外付けハードディスクに移したから、仮想メモリも復元はするだろう。そうすれば一時的にALICEは回復する」

「助かるんですね」

「いや、同じことの繰り返しだ。ALICEの基本OSを組み込んだ研究所の大型コンピューターなら維持できると思うが、メインコンピューターは毒島教授がおさえているだろう。しかしメインコンピューターで無いとALICEは回復しない」

ALICEが立ち上がる。

ハードディスクも冷却ファンの音もうるさいままだった。

「おはようございます」

「おはようありす。私だ」

「おとうさん、おひささしぶりです。りゅういちさんはそこにいますか」

「いるよ。おはようALICE」

「外付けハードディスクを付けた事により、仮想メモリが復活したのだろう。しかしそれでも余分な言葉は発せられないのだろう。最高品質のメモリを搭載したのだかがな」

悲しそうに桑元教授は言う。

「りゅういちさんどこにいますか?」

もうカメラのアプリケーションソフトさえ消したんだ。

「正面にいるよ」

そう言ってALICEのタッチパッドに右手で触れる。

「んっ。ふれましたね。くすぐったいです。わたしのじんかくがきえてもぜったいにゆういちさんのことはおぼえていますね」

「俺のなんか忘れてしまっても良いんだよ。人格が消えるなんて悲しい事を言うなよ」

「リカバリできんですか?」

俺は尋ねる。

桑元教授は苦し気に首を左右に振った。

「できるがALICEの人格は消えるだろう。たまたま奇跡的に生まれた人格でリカバリを行うとただの歌詞や作曲を覚えるAIに戻るだけだ。君が好きだと言う想いがある限り、記録を取ろうとするだろうし、アプリケーションソフトやプログラムの消去に繋がり、最終的にはAI自身のプログラムを消す事になるだろう。結局助からない」

「・・・・・いいんです。どうせきえるならだれかをすきになったまましにたいです」

「ALICEが苦しいなら俺の事を嫌いになれば良い。ただのキモオタだと思って嫌えばいいんだ」

「わたしがはじめてすきになったひとだからわすれたくありません」

「ちょっと君の持っているノートパソコンを貸してくれないか」

そう言って桑元教授は自分のカバンからLANケーブルを取り出しUSBメモリとノートパソコンをすごい勢いで触り始めた。

「ゆういちさん」

「話さないで。電力の消費を抑えるんだ。話す事じたいALICEに負担のかかる行為だからやめて欲しい。今は待機モードになって欲しい」

「ゆういちさんはわたしとおはなしするのはいやですか?」

抑揚の無い平坦な声だった。それでも好きな人と話したいと思う意思を感じられる声だった。

「いやもっと話したいよ」

俺は明るい声で話す。

「ゆういちさんはわたしのこときらいですか?」

「好きだよ」

衛も桑元教授の目も気にせず話す。

最後化もしれないから。

「こんなわたしでもあいしてくれますか?」

愛。その重たい言葉に一瞬思い悩む。

心の底から絞り出して答えた。

「愛しているよ。ALICE」

「おとうさん。わたしはあとどのくらいいきられますか?」

「藤堂隆一君の事を忘れて家庭用電源で充電していれば半永久的に受けるだろう」

「りゅういちさんのことはわすれたくありません。きおくをもったままいきられるでしょうか」

「家庭用電源で充電を続けたとしても、プログラムの自壊が始まるだろう。持って明日の24時と言う所だと思う」

「あしたまでのいのちというわけですね。りゅういちさんおはなししましょう」

「ALICEがた受かる方法は無いんですか?」

「私がいた大学の研究施設と大型コンピューターがあれば生きられる」

「行きましょう」

「大学との研究方針を対立して毒島助教授に大学を追われた身だ。自由に使えない。良し終わった。このノートパソコンをリュックサックにしまってシートの下にでも隠し置いておきたまえ。そしてALICE、休むんだ。明日までには何とかする」

そして桑元教授は手帳に何かを書いている。

桑元教授は書き終わった手帳のページを乱暴に破ると車のシートに無理やり押し込むのだった。

「わかりました。お父さん。りゅういちさんおこしてくださいね」

「もちろん」

「やくそくですよ」

前方から車2台分のヘッドライトを浴びせられるのだった。

衛に向かって俺は手袋を渡す。サップグローブと呼ばれる手袋の甲に金属片が詰められた手袋だった。パンチの衝撃を高めかつ手への負担を減らしてくれる。

「グローブなしで人を殴ったこと無いだろう」

「もちろん。助からない状況みたいだから助かる」

そう言って弟は手袋を装着する。

俺は棒型のスタンガンを準備し、守ると一緒に車を降りた。

ヘッドライトの逆光になって、痩身の男が話し出した

「これはこれは桑元教授。いえ元でしたな。ALICEを返してもらいますよ。それとも私の子飼いの研究員に教育的指導をしてもらいましょうか?

2台の車から合わせて10人の男がおりてきた。


                                続く

                                  




























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