第24話 ALICEの機能不全
俺は複雑な住宅街を抜け、松原中央公園に入る。指定された運動場わきのベンチに座る。日が完全に落ち、公園は闇と化している。
そこへライトの光を浴びせられる。4~5人の男が現れた。
俺は警戒しながら立ち上がる。
そこへリーダー格の強そうな男がしゃべる。
「藤堂隆一だな。ALICEを渡せ」
「何者だ?」
俺は内心震えながら口を開く。
恐いけどALICEは渡せない。
断固として。
「研究所の者だ。ALICEを返せ」
男たちはバールや金属バットをそれぞれ持っている。
「どうして、ここに来る事が分かったんだ」
「ポリに教えてもらってお前たちが行きそうな所には仲間を配置しているんだ。痛い目を見ないと分からない馬鹿なのかお前は。早く渡せよ」
「ALICEが消えても良いよか?」
「しょせんはプログラム上に現れてあやふやな人格に過ぎない。それよりも点閣下のために役立つ仕事をしていると方が良いに決まっている。ボーカロイドの研究をしているなんて恥ずかしくて言えるかっつーの。たたんでしまおうぜ。どうせ公安がもみ消してくれる」
それぞれ、金属バットやバールを構える。どこか人を殴る事に躊躇している。
だから理系かつ喧嘩慣れしていなさそうなのは分かる。
俺はそれどころじゃ無かったけど。
狙い目はそこだった。
「りゅういちさん、もういいです」
リュックサックの中でALICEが立ち上がる。そして話し始めた。
「もうおそい。俺は人を殴ってみたかったんだ、死ねやこら」
俺はまっすぐに加速を始める。
バールや金属バットが振り下ろされる前に突破する。勝機はそれしか無かった。
松原中央公園を抜けて、図書館の前を通り、西に折れ曲がる。
はるか後方から男たちの怒声が聞こえる。
「車を回せ。ひき殺せ」
「りゅういちさん、わたしをおいてにげてください。どうせきえてなくなるいのちならだれかのおやくにたちたいです」
「ALICEは優しいな」
俺は自分に問うまでもなく、心は決まっていた。
「ALICEは渡せないな。俺の嫁だからな」
俺は松原市民病院前を目指して全力で走り出した。
「りゅういちさんはそれでいいのですか?」
「話は後で」
俺は肺が悲鳴を上げている。足も腰も痛み始めた。それでも加速した。
後ろからすごい勢いで車が走ってくる。
「待て。藤堂隆一。俺は手段のためには目的は選ばん。壁と車に挟まれてミンチに成れ。それがお似合いだ」
「ALICEは?」
「そんなのは知らん。人を殺してみたいだけだ」
黒いワンボックスカーに乗った男たちの声が聞こえる。交通量が多い道路のなのに追いかけてくる。信号待ちしている車はさすがにおい声せない様だ。
とっさに歩道に入り、そのいまま左折する。信号が変わる前に市役所前の交差点を左折する。そのまま住宅地の中に入り、松原中央公園に戻る。
「どうしてそこまでしてくれんですか?」
「好きに決まっているだからに決まっているだろ!」
「わたしがすきってほんとうですか?」
息を切らせながらALICEに答える。
「なんだって?」
「だからわたしがすきだということです」
「そうだよ」
照れも恥じらいも無く自分の気持ちを素直に言う。
運動をしてハイテンションになっていたからかもしれない。
パソコンに向かって好きだたと言うのは人としておかしいのかもしれない。
でもALICEはそこにいる。
「は・い。あ・り・が・と・う・ご・ざ・い・ま・す」
ALICEの声に抑揚が無くなり、機械音になっていく
「ALICE大丈夫か?」
「・・・・・だ・い・じょ。う・ぶ・で・す」
言葉を発するのに時間がかかっている。
音声合成ソフトの読み込みまで、ALICEの想いが影響を与えたのだろうなと思う。
どうしてそこまで?
こんなにも俺を想ってくれるのか?
自分の根幹をなす音声合成ソフトの部分まで機能を低下させてまで記憶と感情を大事にしてくれるのだろう?
そんなALICEに俺は残酷なことを言う。ALICEが助かるために。
「ALICE、俺の事はもう良いい。忘れてくれ」
「・・・・・りゅ・う・い・ち・さ・ん。わ・た・し・が・め・い・わ・く・を・か・け・た・か・ら・お・こっ・て・い・る・ん・で・す・か」
俺は歯を食いしばる。完全にALICEの機能は停止しそうだった。
「・・・・わ・た・し・を・み・す・て・な・い・で・く・だ・さ・い。りゅ・う・い・ち・さ・ん・の・こ・と・が・す・き・な・ん・で・す」
リュックサックに入れていたペットボトルの水を飲む。
ALICEを取り出して画面を開く。
「俺は絶対にALICEの事は見捨てない。だって好きだから」
「・・・う・れ・し・で・す」
「ALICE、今の状態は大丈夫なのか?」
「・・・・ちょ・っ・と・し・ん・ど・い・で・す・り・ゅ・う・い・ち・さ・ん・と・も・っ・と・お・は・な・し・し・た・り、も・っ・と・う・た・を・う・たっ・た・り・し・た・い・で・す」
「早く桑元教授と合流しよう。それで直してもらったらきっと元気になるよたくさん話もできる歌もたくさん歌えるよ」
俺は悲しみをこらえ、明るい声で言う。
上手くいえたか知らないけど。
「は・い」
それを最後に会話が途切れる。
「ALICE、ALICE」
ALICEは返事をしない。
「起きてALICE。起きてくれ」
ディスプレイを見る。
電源が無くなっためにスリープモードに入ったらしい。
それぐらいしか情報を読み取れなかった。
桑元教授と急いで合流するために携帯電話でメールを送るのだった。
続く
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