第22話 ALICEと職務質問

廃車となった路上駐車している車の陰に身を潜め、ワゴンRを追ってワンボックスカーが追っていくのを確認してから、俺は松原中央公園と逆の東に向かって、ローラーブレードで走り出す。慣れているとは言え、車の走る道だ。それほど早くは走らない。そのまま、信号につかまると、横断歩道を渡って、恵我小学校前の四さ路に立つ。しかし、そのこには交番がある。焦っても仕方がないけど交番を横切るのは悪手だ。

僕は右手にある交通量はそこそこあるがちょっとだけ道が狭い道を選択する。

そこをローラーブレードで走って行く。割と工場が多い地帯でもある。

しばらく進み、南に向かう道、松原四中に向かう道を走って行く。

今から下校の時間だ。通報されるかもしれないけど、知った事か。

ALICEはただのプログラムかもしれない。

だけど人格と感情を持ち生きている。

自販機で水を買うと、そのまま松原市立四中の前を抜けて、信号を渡りヤマザキパンの工場の方に向かう。そのまましばらく走るとサイクルショップの角を曲がり、公園に入る。ローラーブレードとは言え、この炎天下走るのは疲れる。一口、口をつけてのどを湿らすとリュックサックからALICEを取り出した。裏面の辺りを冷えたペットボトルで冷やしていく。

そのまま液晶画面を立ち上げる。

ALICEが自動的にスリープモードから立ち上がる。

画面は相も変わらず暗い。

「ALICE起こしたかな?。かなり無茶して走ったから振動で壊れていない?」

「今の所は大丈夫です」

「良かった」

僕は微笑む。

「あの今微笑まれましたか?カメラが作動していなくて表情が分かりません。怖いです。もしよければ歌を入力してくれませんか」

いつにも無くALICEは強い声を出している。

「どうして?電力の消費は抑えた方が良いと思うよ」

「隆一さんと思い出を持って作りたいからです」

「桑元教授と合えば問題が解決していくらでも入力できるようになるよ」

「でも思い出が欲しいです。今音楽ソフトを立ち上げますね」

・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

「ソフトの立ち上がりに時間がかかるのかな?」

俺は心配になって尋ねる。

「えっ?」

「作曲用のソフトがありません。いつのまにかデリートされています。カメラもグラフィックソフトも」

「毒島助教授の仕業?」

「分かりません。このノートパソコンは外部からの通信を遮断する作りです。インターネットにも繋ぐ機会も入っていません。だから外部からの侵入はできないはずです。とても怖いです」

俺はALICEのパソコンをぎゅっと抱きしめる。

「大丈夫。必ず桑元教授の元に売れていってあげるからね。治してもらおう」

「本当ですか?・・・体感センサーがあれば良かった。隆一さんのぬくもりを感じられるのに。桑元教授に取り付けてもらいますね」

うかつな事に二人の世界に入っていて警察官が近づいてくる事に気づかなかった。

「お兄さん、夕方にどうしたんですか?」

「それはノートパソコンですね?」

僕はとっさに嘘をつく。

「気分転換に街をうろつて、作詞作業をしていたんですよ」

「ななな♪」

ALICEがとっさに歌ってくれた。

「パソコンが歌うとか時代は進んだものだな」

年配の警察官は少し驚いているようだ。

「これはALICEじゃないか?」

若い警察官が気づく。

「そうです」

「もしかして藤堂隆一か。公安から手配書が回っていた」

手元のリュックサックを引き寄せてALICEを入れる。

「署まで来てもろうか?」

「罪状は?」

「公安にでも聞いてくれ。でも無視をすると公務執行妨害の現行犯と言う事になる」

「付いていきますから、リュックサック背負って良いですか?」

そう言って立ち上がり、リュックサックを背負うと全力でローラーブレードで走り出す。人間の足では追えない。

2人の警察官はスーパーカブを取りに走っている。

この辺は十字路が多い、ローラーブレードは急に止まれないから、運を天に任せるしかない。

「止まりなさい。止まりなさい。公務執行妨害の現行犯だ」

スーパーカブに乗った警察官が追ってきた。

人の足より速く、スーパーカブより遅い。

そのギャップを着くしかない。

僕は急に速度を落として、十字路をカーブする。

後ろから追ってきたスーパーカブに乗る警察官はオーバーランをする。その間にヤマザキの第二工場がある通りに出ると全力で国道309号線を目指して駆け抜けるのだった。

                                 続く

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