第20話 ALICEの消える歌声
ガソリンスタンドで携帯型のガソリンタンクとワゴンRにガソリンを補給すると、大和側に並行する中央環状線に出て車を止めた。
後部ドアを開けて、発電機の向きを調整して、車内に排気ガスがこもらない状態で、発電機にガソリンを入れて、発電機を付けた。延長コードを繋ぐと助手席まで延長コードを持ってきた。そしてALICEの充電コードを繋ぐ。サイドミラーで衛は周囲を警戒している。
フィーン
ALICEの冷却ファンが元気よく回る。
「さっきは何をお話されていたんですか?」
「衛と俺が警察に追われていると言う話だよ」
ノートパソコンの画面はとにかく暗い。
バッテリー容量の部分の良く見えなくなっている。
「スパイものの歌みたいですね」
「なぜに歌?」
衛も苦笑する。ALICEは歌姫で映画は見ないから映画とかドラマの概念が無い事を気づいたのだろう。
「おかしかったですか?」
「ALICEらしいと思ってね。ボーカロイドだから一番最初に出てくるのは歌だよね」
「はい。ボーカロイドでもありますから。でも歌のデータが無いから歌えません。即興で歌を作ってみましょうか?作詞作曲のプログラムは残っていますから」
「ALICEは歌が好きなのは分かっているから大丈夫だよ。電力の消費は激しそうだからやめておいた方が良いと思うよ」
「私は作詞作曲用のAIでボーカロイドです。こんなの簡単ですよ」
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
沈黙が続く。
「おかしいですね。いつもなら5秒くらいで歌ができるのに、なぜか歌えません」
機能が停止し始めている。
その事を告げるのも気が引けた。一番不安なのはALICEなのだ。ALICEの不安をあおるのは良くない。
「ちょっと発電機の発電する電気のアンペアとかボルトが合って無いのかもしれないね。フル充電すればきっと歌えるよ」
俺は優しく告げる。これ以上ALICEを傷つけないために。
自分の存在を否定される事ほどつらい事は無い。
「恐いです。なぜ私は歌えないの?」
俺は決意を固める。
桑元教授の元に行こう。
「ALICE、桑元教授の家は知っている?」
「恐いです。私はどうなるの」
「ALICE落ち着いて、桑元教授に見てもらおう。作った人だから歌える様にしてもらえるはずだよ」
「歌うために作られたのに」
ALICEの中心にある感情、いや自分と言う存在を作り出しているのだろう。
このままALICEが自己否定をするのを見ているのは辛い。
「歌えなくてもALICEはALICEだよ。ALICEが俺を好きだと思ってくれているなら歌えなくてもALICEの存在は確立しているよ」
ALICEの声がすがる様につぶやく。
「本当ですか?」
「本当だよ。俺が認めるよ。だからALICEが元気になるためにも桑元教授の連絡先を渡して欲しい。」
「ありがとうございます。やっぱり私は隆一さんの嫁なんですね。安心しました。メールアドレスを伝えますね」
「ちょっとまって、携帯を準備する。衛の頼む」
「良いぜ。兄貴。何かあった時に連絡先知っておいた方がいいだろうからな」
そう言って携帯電話のアドレス帳を開き新規入力の設定にする。
「じゃあ行きます。メールアドレスしかしりませんけど、良いですか?」
「良いよ」
「じゃぁ伝えます」
ALICEの声で伝えられるメールアドレスを伝えられた。俺と衛は間違いのない事を確認すると携帯電話のアドレス帳の登録した事を確認してそれぞれポケットに落とさない様に入れたのだった。
「ありがとうALICE。ちょっと充電している間に寝たらどうかな?変な言いましになるけど休んだ方が良いと思う」
「ふー不服です。でも寝たら元気になるかもしれないのでスリープモードになりますね」
スリープモードにALICEが入ったのを確認するとディスプレイを静かに閉じるた。
「兄貴、ALICEは助かるのか?」
「分からない、だから桑元教授に連絡を取ってみようと思う」
「作った人だから何とかしてもらわないと困る」
「それはそうだ」
そう言って衛は肩をすくめた。
続く
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