第19話 ALICEと毒島助教授

コーナンの駐車場奥にワゴンRを隠す様に止めて、ALICEと話す事にした。追跡者について話しておきたかったからだ。

車の中から不審者を探す。

特に怪しい人はいないようだ。

「ALICE、40歳くらいの痩せたおっさんに心当たりは無いか?」

「毒島助教授ですか?」

「ぶっ」

あまりにも悪役をイメージさせる名に衛はふいている。

笑いのツボに入ったらしい。

「俺の家に尋ねた来たよ」

「確か送り状の控えは家に残るんですね。だから住所をたどってきたのだと思います。毒島教授は細かくてねちっこい性格をしています。良く大量のデータを処理して、反政府的な語彙を引き出すにはALICEを改造するのが一番だとか言って私を改造しようとする嫌な人です。もう一台情報収集用のAIを作り上げれば良いと思うのです。改造して日本政府に渡せば補助金がたくさん出ると言っていました。本当は私を作り上げた桑元教授に打ち勝って、教授の座を奪いたいと思っているのです。毒島助教授は工学系の能力を持っているのですが、AI理論と全体設計は桑元教授の方が勝っているのです。たぶん、毒島教授はAIを作れないので私を改造しようと思ったんだと思います。私は桑元教授に頼んで私を発送してもらいました。桑元教授はテクノロジーは平和に使われてこそ意味があると言うのが口癖でした。私を発送する前に大学と毒島教授の国家プロジェクトとして私を改造する計画に反対しために研究所の所長を解任されました。出勤日の最後の日に私を発送してくれたのです」

「そう言う事情があったんだね」

「兄貴、感心している場合か。公安と毒島助教授の一団に狙われているのだぞ」

「衛ALICEの事は話したかな?」

「何も聞いてない」

「ALICEは仮想メモリ上に生まれた人格だから、仮想メモリが止まると

ALICEの人格は失われる。バッテリーを補充しても、このALICEには戻らない」

「マジか兄貴」

俺はうつむいて答えた。

「いつになるか分からないけど、それは確実な話なんだ」

「桑元教授の所に行こうと思う。バッテリー充電用の電源さえ確保できたらALICEの人格は消えない。全てはそれからだ」

「公安と毒島はどうするんだ?逃げるのか?」

「あぁ、逃げの一手だ」

「俺も犯罪者になってしまった。両親に申し訳ない」

「公安にはマークされているだけで、毒島助教授は勝手に追いかけて来るだけだよ」

「ちょっと行ってくるわ」

「どこにいくんだ?。今更逃げるのか?」

「コーナン。発電機と延長コードとガソリンタンクを勝手くる。ガソリンタンクを勝っておかないとガソリンスタンドでは発電機にガソリンを入れてくれないからな。ALICEを少しでも長生きさせたい。充電はしないよりましだと思うから。買い物の間、ALICEを頼む」

「分かったぜ。兄貴」

俺は衛にALICEの事を頼むとコーナンの店舗に入って行く。ガソリンを入れるためのノズルが付随する携行缶のガソリンタンクと発電機と延長コードを手早く買う。店を出て、車に戻ろうとすると前から昼間話しかけてきた二人組の公安の刑事が歩いてきた。

「こんばんは。大変な目に合ったんだって」

「こんばんは。逮捕令状は持っていないのですか?」

刑事は凄みのある笑顔を浮かべる。

俺は内心不安に駆られる。

「桑元教授が解任される前にALICEを君に譲渡したと言うのは調べた結果分かった。だから君を逮捕する事はできない」

俺は安心する。だが一回安心させといて奈落に突き落とす事を言うのかもしれない。俺は腹に力を入れる。

「そんな目をするな。君を助けるつもりは無いが、監視はさせてもらうし、毒島教授の行動を止めたりはしないがね。敵対的中立だと思ってくて良いよ。もし毒島助教授に対して暴力を振るえば傷害罪で君を逮捕するがね」

「ありがとうございます」

「もう寿命なのだろう?」

俺は視線を落とす。

「なんでコンピューターのためにそこまでするんだ」

そこで視線を挙げて笑みを浮かべた。

「俺の嫁ですからね」

「最近の若者は分からんな。草食系男子と言う奴か」

「違いますよ。ただのオタクですよ」

刑事は心底分からんと言う表情を浮かべている。

「オタクか?分らんな。うちのコンピューター担当の奴らも分からんが」

「もう良いですか?俺たちには時間が無いんです」

「そうだったな。行っていいぞ」

「ありがとうございます」

そう言って荷物を載せたカートをワゴンRに持って行く。

そして後部ドアを開けて、荷物を積み込む。

「遅かったな兄貴」

「公安の刑事に警告されていたよ」

「少しでも違法行為をすれば現行犯逮捕すると言う話みたい。ALICEを毒島助教授に渡すまでマークするってさ」

後部ドアを閉めて、助手席に座る。

「公安の車何て見えないぞ」

「そりゃプロだからな」

「これからどうするんだ」

「ガソリンスタンドに行こう。発電機にガソリンを入れて発電して、ALICEを充電しよう」

「分かった」

言葉少なげに衛は言う。

沈黙だけが流れるのだった。

                              続く

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