第18話 ALICEと俺と衛の逃亡劇

「兄貴どこに向かえば良い?」

「とりあえず松原方面。なるべく裏道を通ってくれ。それと交通法規を守った安全運転で頼む」

俺はリュックサックを抱きしめながら答える。

「注文が多い。まぁ任せろ」

衛は一言多い。

しかし、いつものおどけた表情は無く、真剣な眼差しで運転している。

きっと俺やALICEのために何かしたいと思っているのだろうと思う。

口では常識的な事を言うが、一度やると覚悟を決めると真剣に取り組む。

衛はそんな男だった。なぜに持てないのかが不思議である。

これは決して言えない。

「このまま裏道を通って、松原警察署の前を超えて309号線に出てくれ。市民病院前を右折して、コーナンに行って欲しい」

「コーナンで何を買うんだ?」

「発電機とガソリンタンク。ALICEを延命させるために充電したい」

「ああ。分かった」

衛は真剣にバックミラーやサイドミラーを見ながら運転している。

追跡者を気にしているのだろう?

「音楽を聴いてい良いか?」

「良いよ」

衛は即答する。

空気の重さに耐えかねたのだろう。

俺は車についているMDのスイッチを操作する。

弟が選曲したALICEの歌が入っている。

ふぃぃーん

歌が流れ始めるとALICEが立ち上がる音がする。

俺はリュックサックから急いで、ALICEを取り出した。

液晶画面を広げる。

相変わらず真っ黒でかすかにバッテリー残量のゲージだけ残っている。

「今流れているのは私の曲ですね」

「ALICE充電のめどが立つまでスリープ状態でいれないか?」

「少しだけ。ダメですか?」

俺は何とかして口を開く。ALICEさんの望みは記憶を記録する事。

それがALICEの願い。

俺の望みはALICEを救う事。だけど願いを無視する事は出来ない。

「少しだけなら大丈夫」

「ありがとうございます。私の歌ばかりの選曲ですね」

「衛の趣味だけどね」

照れ隠しにうそぶく。

「兄貴の趣味じゃ無いか!嘘は良くない」

「とてもうれしいです。歌データさえあれば歌うのに」

「ALICE、もうスリープモードになった方が良いって」

充電できる可能性は低い。

ALICEは死に向かっていくだけ。

俺はそれが断じて許容ができない。

俺のエゴとしても。

幸いワゴンRのリア側の扉は開いて発電機を置くスペースくらいとれるはず。コーナンで発電機を買わないといけないな。最近は規制が厳しくなっているからガソリンを入れるタンクも買わないいけない。

俺はALICEを救いたい。

そう考えているとコーナンの看板が見えてきたのだった。                                              

                                  続く 

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