君の願い、俺の望み

第17話 ALICEと来訪者

俺は家に帰り、いつも履いている安全靴を持って部屋に上がり、制服を着替えて、リュックサックからALICEを取り出して充電を開始する。時間がかかるかもしれないが何もしないよりもましだ。ただ電力の消費があるので話しかけなかった。

何か嫌な予感がすると、言うか起こりうる事象に対応するべきと言うか、部屋着に着替えずに普段着を着こむ。財布になけなしのタンス貯金の50万円をいれて、ベルトポーチには携帯電話の充電器とマグライトを入れた。

そんな事をしていると、衛がドアを乱暴に開けて部屋に入って来た。

「今日、警察、それも公安が来たんだぞ、それでも説明なしか!」

八月の熱気なのに、これを着るのかと思いながら、防刃ジャケットを普段着の上から着こんだ。

「着替えて無いで、こっちを向いて話せよ」

やれやれと思いながら俺は着替え終わり、衛の方を向いた。

「俺の所にも公安の刑事が来たよ」

「警察沙汰だぞ、何か言う事があるんじゃいか!」

「おはようございます」

ALICEの場違いな声がする。

充電しているからのだろう。

「あれ?私の可愛いグラフィックは出ていませんか?」

俺はALICEの方に気を取られる。

「ALICEを触るな、俺の話を聞け!」

「もう直ぐしたら公安の刑事が捜査令状と逮捕令状を持って家に来る。覚悟を決めとけ。今からALICEを捨てても証拠隠滅の罪に問われるぞ」

「それにALICEの寿命もそんなに長くない」

「それだったら、研究所に返した方が良いに決まってる!」

「いろいろ理由があるんだよ、そう言うと部屋にある趣味で行っているインラインスケートとその装備一式を取り出し、リュックサックに無造作に投げ入れる。

「衛さん。そんなに怒らないでください。隆一さん部屋に靴を部屋に持ってきたり靴みたいなものをリュックサックに入れてどうするのですか?」

「もうそろそろ動きがあるかなと思ってね」

「隆一、お客さんだよ」

暢気に母親が来客を告げる。

俺に来客がある場合はたいてい、事前に連絡がある。

だから俺に好意的な来客ではないと直感的に決めつける。

急いでリュックサックにALICEと充電用のケーブルを入れると衛に言う。

「携帯の充電器と携帯を持って居俺の部屋にいて」

玄関に降りると40歳くらいで目に狂気を宿した瘦身の男が立っている。

それに大学生5、6人いる。

「ここでALICEを預かってくださっていると聞いて、返してもらいに来ましたよぉ」

「ALICEなんてしりません」

そう言いながら玄関の壁にかかっている、弟の愛車、ワゴンRの鍵と靴棚の靴を取る。

「おっとぉ、逃げられませんよ」

狂気を秘めた笑みを浮かべる。

「この送り状を見てください。藤堂隆一さん、あなたに送ったと言う送り状の控えがあります。どうやって、あの男に取り入ったから知らないが観念する事ですねぇ。さぁ。やれ」

大学生たちに指示を出して、強引に家に入り込もうとする。

俺は玄関のカギを締めると、母親に叫ぶ。

「警察に電話して」

「こうなれば力づくだ。ドア何て壊してしまえ」

「人の家に土足で上がるなよ」

俺は車の鍵と衛の靴を持って自分の部屋に戻った。そのまま靴と鍵を衛に投げると衛に言う。そのまま俺は安全靴を履いている。

「何があったんだ?」

俺は全力でドアノブを握っている。

「研究所の職員を名乗る男が大学生を6人くらい引き連れて来た、力づくで取り返すらしい」

「どうするんだ」

「靴を履いて車を出して欲しい」

どんどんどん

「早く開けろ、開けてALICEを出せば被検体くらいで許してやるぞ」

どん。

大学生たちは鍵がかかっている物だと勝手判断してドアを叩いている。

衛も靴を履いた。相手の非常識さを分かったらしい。

「どうする」

「こうする」

窓を開けると俺はリュックサックを持って飛び降りたのだった。

「飛び降りるのか。俺もこれで共犯者か。やってみるか」

そう言い衛も飛び降りるのだった。

そして俺は助手席に座り、衛が運転する古びたワゴンRに乗り、家を後にするのだった。                                

                                   続く

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