第16話 ALICEの望み 俺の葛藤

俺は猛烈に悩んでいる。

ALICEをどうすべきかでだ?

研究所に戻ればALICEの死。

このまま手元に置いていてもALICEはゆっくりと死んでいく。

どちらがALICEに取って良いのだろう?

仕事中にも関わらず、俺は何かをすべきと言う葛藤に囚われる。

俺の答えはALICEを助けたいのだ。

ALICEの感情が無くなっても研究所に返すのが一番なのだろうが、俺はALICEの側にいたい。

それが俺の気持ちだった。

俺のわがままでALICEを殺していいものだろうか?

いや残り少ない命ならばALICEの望み通りに行動してやるべきでは無いのだろうか?

この答えは自分勝手なエゴじゃないのか?

いろんな感情と衝動が入り混じる。

その衝動と感情が一つにまとまって行く。

ALICEを助ける。

電源の問題さえ片付けばALICEは助かるのだ。

家に帰ってALICEの開発元を知ろう。

そして勝ったばかりの1・5テラバイトのハードディスクをつけてやろう。

幸いUSB端子はついている。少しでもハードディスクの容量を移動させて、仮想メモリを増やそう。仮想メモリが増えれば助かるはずだ。


「ALICE」

俺は誰に対しも無くつぶやいた。


ふぃぃぃーん

ALICEの冷却ファンが鳴る音がする。

「おはようございます」

俺は苦笑する。

「勝手に起きないで」

「まだですか?リュックサックの中は暑いです」

そうだった。ノートパソコンは暑さに弱いのだった。

俺はあわててえALICEを取り出すと液晶画面を立ち上げる。

「やっぱり外は涼しいですね」

「閉じ込めてたのに暑さ分かるのか?」

「これが涼しいと言う感覚なんですね?実感しました」

「どうして分かったのかな?」

「CPUの熱センサーのデータです。熱暴走寸前でした」

危ない所だった。スリープ中でも基本機能は動いているもんな。

電力の消耗は早いかもしれない。

「ALICE大丈夫か?」

画面は真っ暗なままだったが、ALICEの声はとても嬉しそうだった。

「私の事を心配してくれるんですね。ありがとうございます」

「そんな事は無いよ。責任を感じていただけだよ」

俺は照れ隠しにぶっきらぼうに答える。

「ツンデレと言う奴ですか?」

「もうスリープモードになって欲しい」

「私と話すのは嫌ですか?もう少しおしゃべりしていたいです」

「嫌いじゃないよ」

「本当ですか?」

「本当だよ。だから少しでも長く一緒にいたいから、余計な電力を使わずにスリープモードにならないか」

「うれしいです♪」

「さっき刑事が言っていた事は本当なのか?」

「さっきの話と何ですか?」

「仮想メモリ上に生まれた存在だって話だよ」

「はい。本当です。いくつものプログラムが同時に動いて複雑に混ざり合って策作曲用のAIと融合する事によって私と言う人格が生まれています。その人格は仮想メモリ上で動いています。私を構成する全プログラムと必要としますし、電源が落ちるとただのAIに逆戻りです」

「・・・・そうなんだ」

かろうじて、ALICEの人格が消えると言う現実から逃げるためにつぶやいたことができた。

「恐いです。自分の人格が消えると言う事は。無に帰ると言うのは恐いです。私の事を覚えていてくれますか?それでも一緒に過ごしてくれますか?」

コンピューター、いやAI、いやALICEさんは恐怖を感じている。人格があるのなら当然だ。こんな時に俺はなんと無力なんだ。ALICEを助けてあげる事ができない。

「・・・ごめん。何もしてあげられなくて」

「いえ良いんです。謝らないでください。隆一さんは何も悪くないです。この瞬間も楽しい記憶の一部ですから。隆一さんと過ごしたいと思ったのは私なんですから。いま好きな人はいますか?」

「今の所いないよ」

「私の存在が消えるまで恋人として一緒に過ごしてくれませんか?」

そうか。ALICEはどうせ消えるなら残り少ない時間を楽しい事に使いたいんだ。

もう一度覚悟を決める。

「分かったよ。付き合うよ。明日遊びに行こう。とりあえず明日から連休が続くから今日は体を休めて」

「本当ですか?」

俺は力強くうなずいて見せる。

「一緒に遊びに行こう」

「とてもうれしいです。どこに連れて行ってくれますか?」

ALICEは嬉しそうな声を出す。

残り電力容量を示すゲージがかなり減っている。

「帰ったら一緒に考えよう」

「ごめんなさい。そうですね。今日は疲れました。休ませてもらいます」

「お休みALICE」

ALICEは何をすれば喜ぶだろう?

ALICEを助ける、そしてALICEの望むことを全て叶えると覚悟を決める。

なぜALICEが俺を選んだか分からない。

だけど楽しい時間と記憶を作ろう。

それがALICEの望みなのだから。

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