第15話 ALICEを救うために
俺は仕事中にも関わらず、ALICEを救う方法を考えていた。
誰かに相談するか?
仲の良い信用できる友達は全て運送関係に勤めている。
誰か一人くらい電気関係に働いてくれていても良いじゃないか!
なんでだ?
運送業に着くために学校に通っていた訳でもないのに。
理不尽な怒りを持つ。
だけど友達には迷惑はかけれない。
公安が動いているのだから。
ととろ。とろろ♪
メールの着信音が鳴る。
衛からの着信音がある。
別にとろろには衛は似ていない。
無理、そもそも高圧電源ってなに?
それもそうだ。家庭用電源じゃ無理と言う話だけどどれぐらいの電圧が必要とされているのだろう?
ALICEを起こして聞くか?
無理な話だ。
衛も大学に行っているのだから電気の基礎知識くらい学んでいても良いじゃないのかと場当たりかつ場違いな八つ当たりの感情を持つ。
ALICEを何とか助けてあげたい。
リュックサックの中から何か音がする。
耳を傾ける。
いつもの人のしゃべる様な声では無く機械的な無機質な声。
「深刻なエラーが発生しました」
「深刻なエラーが発生しました」
「緊急停止装置作動。プログラムを強制終了します」
強制終了?
電源が落ちて機能停止すれば仮想人格に作られたALICEの性格は消えてなくなる。
うそだ。
ALICEに消えて欲しくない。
俺はあわててリュックサックの上に置いていたALICEのディスプレイを開く。
ALICEの3Dグラフィックが微笑んでいる。
「びっくりしました?一回行ってみたかったんです。初音ミクの消失みたいに」
ALICEを失う恐怖が消えていき俺は心の底から安堵する。
「びっくりさせないで欲しい。本当にお別れになると思ったじゃないか」
ALICEのグラフィックが少し嬉しそうな表情になり、明るい声で謝罪する。
「ごめんなさい。でもやっぱり自分のお嫁さんには消えて欲しくないんですよね」
まぁ図星だった。そのまま肯定するのも気が引けた。
でも今のALICEは不安定な気持ちを押し殺して、明るく振る舞っていると思う。だれも消えたいと思っている人はいないし、消える恐怖がそこにある訳でも無い
もしかしたら、残された時間を俺との思い出に作りたいのかもしれない。
俺は思う。
ALICE、残された時間で一体何がしたいんだい?
そう問う事もできずに笑顔でALICEのカメラに顔を寄せながらALICEに話しかける。
「電力が少ないんだろう。話しかけたくても穏やかに話しかけてくれないか?びっくりするよ」
「恥ずかしいです。のぞき込まないでください」
俺も無いか恥ずかしくなる。
一体、コンピューターと仮想人格相手に何をしているのだろう?
我ながら終わっていると思う。
でも終わってても壊れていても良いと思っている。
ALICEはそこにいるのだから。
「ごめん、ごめん」
「良いんです。恥ずかしかった。隆一さんの笑顔のスクリーンショット取っておきました」
「今日はもうスリープモードで休んで。電力消費を抑えないといけないんだろ?」
「もう少しだけ、後少しだけ良いですか?」
俺はわざとらしくため息をつく。
「五分だけだよ」
「はい、この五分間は絶対に忘れません」
ALICEの3Dモデルはとてもうれしそうな表情を浮かべる。
そして3Dモデルは消えて、画面が真っ暗になる。
「ALICE、ALICE、画面が消えたけど大丈夫か?」
「えっ?たぶん電力が少なくなってスクリーンセイバーが立ち上がったんだと思います」
ALICEは不安そうな声で話す。
「電力的に厳しそうだね。今日はスリープモードになろう」
「五分間の約束は?」
ALICEの声は少し不満げだった。
「ALICEの体が大事だろ?思い出はいつでも作れるから」
「分かりました。スリープモードにしてください。休みます。絶対に起こしてくださいね」
俺はALICEのカメラに向かって微笑んだ。
「帰ったら必ず起こすよ」
そう言ってALICEをスリープモードにするのだった。
続く
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