第13話 ALICEの想い

区画整理された住宅街での車の通行止め。看板と現場が見えているだけで、車は迂回していく。

当然ALICEとの会話とのおしゃべりをする時間ができる。

「恋なんて知らないのに恋を歌うか」

「何ですか?そのダサいありとセリフ回しは」

「今度のバラードのテーマと言うか今頭に降りて来た。でも80年代アニメの歌のパクリかもしれない」

「どっかで聞いたフレーズですね。データが無いので確定はできませんけど」

「やっぱりそうだよな。自分でも思った」

「今の歌じゃなくて、なんでも良いから歌ってみてくれませんか?他の人が歌うの興味があります」

「実は音痴。音程とリズムが言う事を聞かない」

「うそ。音楽を作る人って理論で音程を理解しているので、音程を外さないと聞きましたよ。まれに音程があっているけど歌は下手と言う人も少数いると聞きましたけど。歌ってくださいよ」

こんな他愛の無いやり取りでも楽しい。

AI相手に何を思っているのやら。

「やだよ。仕事中だし」

「そこを何とか?」

「無理だよ」

「隆一さんはけちんぼです」

「今日は涼しいね」

「涼しいって何ですか?」

そうかALICEには体感センサーがついてないんだ。

あいまいな表現では自然や環境が理解できない

「過ごしやすいと言う事だよ」

「少し意味合いが違う気がします。辞書ソフトでは今までの気温より体が快適な状態とあります」

「その状態が涼しいだよ」

「間違っていませんか?情緒的におかしくありませんか?」

「情緒的にもあっているよ」

「そう。そうれなら良かったです」

「私には感情が無いから真似るだけ、壊れた人形」

「なんですか。その言葉は」

「バラードの歌詞の原案だよ」

「とりあえず言いたい事が256か所あります。まずは」

「凹むからやめてくれ」

「分かりました」

「やっぱり作詞作曲用のAIなんだな」

「そうですよ。でも感情が無いから感情を込めて歌う事が出来ないんです。もっとうまく感情を込めて歌いんです」

「十分歌えていると思うよ」

「それは作者さんが丁寧にボーカロイドの私を調声してくれたからです。私の力ではありません」

「でも会話していると確かにALICEの感情を感じるよ。例えデータに導き出された反応の選択かもしれないけど、その選択はALICEの感情だと思う」

「本当ですか?とてもうれしいです」

「本当にALICEには感情があると思うよ」

プログラムやデータから得られる想定された反応でもALICEには感情と呼ばれるものがある。

俺はそれを確信している。

アリスは誰よりも人間らしいと思う。


ちゅんちゅん


そんな感慨にふけっていた僕をALICEは現実に引き戻す。


「さっきからちゅんちゅんと鳴いている生き物は何ですか?」

「スズメだよ」

「聞いた事はありません。ハトならあるんですが」

あったよね。ニコニコ動画でそんな曲。

「鳥の一種だよ」

「鳥って何ですか?」

「空を自由に飛び回る生き物だよ」

「空かぁ。自由に飛んでみたいな。そうすれば空の大きさも風を切る感覚も分かるんですよね。体感センサーが付いていればいいのになぁ」

「ALICE本体のサーバーもバックアップである私も外には出ない仕様になっていたいましから、外の世界なんて知りませんし、カメラも部屋の中を見るくらいしかできませんでした」

「そうなんだ」

「だけど、いえだから今日起こった事もこれから起こる事も全て記憶します」

「全てを記憶していけば、データ量が増えすぎて仮想メモリとか圧迫して処理落ちしたり、壊れたりしないかな?」

「大丈夫です。圧縮してタグ付けして記録します。でもそれだと記憶にはならないのかな?記録と記憶は違うんですよね。私の情緒の問題かな?」

「安心して。それだけ情緒を気にするコンピューターは存在しないから」

「私はそう言う風に作られましたから」

どこか寂しそうに答える。

「人間だって同じだよ。最初からプログラムされている訳じゃ無いけど、経験と記憶と体験によって性格がきまるんだから。性格って言うOSでルールとか常識とかのアプリが動かしているんだから同じだよ」

「種族を超えた愛ってあると思いますか?」

どうしてそうなるんだ。

ALICEの発想が飛び過ぎてついていけない。

ALICEの女性人格を認めると恋愛の対象にはなるのかもしれないが、パソコンに発情する訳も無く、発情したからと言って恋愛に陥る訳も無い。恋愛ってなんだろうな?

解らないな。

もしかしたらALICEは命がけの恋をしているのかもしれない。

ALICEの方が恋愛について深く知っているのかも。

「あるんじゃないかなあ?」

「でもやっぱり私みたいなプログラムでは難しいですか?」

「そんな事無いよ。ALICEの人格プログラムは可愛いよ」

「それじゃ私の事好きなんですね」

「なんでそうなるんだ」

「種族を超えた愛があるって言ったじゃないですか。それにメールでもラブラブだったじゃないですか?それにお嫁さんにしてくれましたよね」

「ラブラブにはなっていない」

「私の隆一さんへの感情は本当ですよ」

AIに好きって言われて素直に喜べないよなと内心で思う。

でも心のどこかでALICEに好きだと言われて喜んでいる自分がいる。

「あれだけ、私に好きだと言わせる曲を書いてくれたのに。嘘だったんですか?」

「曲は曲、好きは好き」

「結局は私の事が好き」

「なんでそうなるんだ」

この会話は楽しいんだけどね。ALICEの事を好きになり始めているのかもしれない。

「私が可愛いから?」

「女の子は普通、自分でかわいいとは言わないよ」

「ユーザーのみんな言ってくれるもん」

質問集とかあって、その状況に対して反応しているのでもすごいのに、ALICE自身が状況を理解してしゃべるのは素直にすごいと思う。

「ごめんな。二次元もえーにはならないタイプなんだ」

「可愛いのは私の性格です。グラフィックが可愛いのは当たり前です。私の事を避退しないでください」

今のALICEは性格だけを拠り所にしている。ALICEの性格を否定すると言う事は、ALICE自身を否定する事なる。それはいけない事だ。人だって性格を否定されたら嫌だよな。

「性格ならなおさら人間は自分の事を可愛いとは言わないよ」

「そんなものなんですか?」

「そうだよ」

「私の情緒が足りない所ですね」

「そんな事無いって。自分でかわいいと言う人は人から嫌われるからね。自分では言わないだけだよ」

俺はなんでALICEのフォローをしているのだろう。

もしかしたら、恋に落ちたのかもしれないな。

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

ALICEからの返事が無い。俺の言葉でバグを発生させて壊した?

いなくなんてなって欲しくない。

あわててしゃがみ込み、マウスを動かす

スクリーンセイバーが解除されてバッテリーが容量が30%を下回っている状態を示している。

「ALICE。ALICE」

「はい。おはようございます。隆一さん」

「寝ていただけか良かった」

「おはようございますって、私寝ていました?」

「バッテリー容量が下がっているみたいだからスリープモードにするよ」

「後少しだけ」

「だめだよ、ALICE。俺はALICEにいなくなって欲しくない。だから家でゆっくりと話そう」

「愛の告白ですか?それなら仕方りませんね。寝ますね。おやすみなさい」

どこか嬉しそうな声で眠りに落ちるありすだった。

                                続く

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