第12話 アリスとのお仕事デート

松原商店街と近鉄南大阪線の線路を超えて、逆井大和高田線の道路に出る。

信号待ちをしている。後は会社まで15分。

ALICEとの会話も無く、道路を自転車で走り、会社に顔を出す。

どこの現場に行くかを聞くと、いつもの現場だった。

だから俺は即座に現場へと自転車をこぎ出した。

「ALICEもう良いよ」

「この風景が隆一さんが見ている風景なんですね。やっぱり八月の空は大きくてとても青いですね。これが空なんですね。皆さんが空と歌わせてくれるんですけど、空を見た事が無かったから、暇1つぴんと来なかったんですよ」

「だから空に関心を示すんだね」

「私は知らない事だらけですけど、後は恋心をしれば完ぺきなボーカロイドになります」

「へっ?」

俺はびっくりして間の抜けた声を出す。

AIは興味のあるものを学習すると言うけど、AIが恋心を理解したいと思っている事にびっくりする。

「ひどいです。そんな隆一さん嫌いです」

「今のパクリだろ」

とあるゲームのセリフだ。

「ばれちゃいましたか」

「そりゃばれる」

不思議と嫌いなキャラクターはいなかったげーむだなと場違いな事を思う。

「でも隆一さんが入力したんですよ」

「そんなバカな?」

でもいろいろなギャルゲーのセリフを入力してしゃべらしていた時期もあった、入力したかもしれない。

「悪かった。俺のせいだ」

AIの思考が偏向した責任は取らないといけないかもしれない。

どんな責任かは知らないけど。

「良いんです。隆一さんとの思い出は大切な記憶です」

大切な記憶?

他にもたくさんの情報を得ているのだろう?

なぜ俺との記憶にこだわるのだろう?

もう一度聞いてみよう。

「ALICEなぜ俺なんだ?」

「それは隆一さんが入力した楽曲データに興味を持ったからです。隆一さんと私が恋の落ちる歌を作ってくれたじゃないですか?それで興味を持ったんです」

「確かに作者とALICEが恋に落ちる歌だけど、本当にそれだけの理由?」

「はい」

ALICEは断言する。

「他にもいただろう?それに俺は最底辺のボカロPだよ」

「歌の良し悪しは総再生数とかコメ率とかじゃないです。関係ありません」

「ありがとう」

だけど内心、直すべき箇所が265か所あって、要約すると歌詞がダメでテラMIDI音源なんだよな?

叫びだしたくなる衝動。

恥ずかしさとふがいなさでまじりあった衝動が自分の体を駆け抜ける。

「どうしましたか?」

「何でもないよ」

そんな会話をしていると現場に着いた。

「ALICE現場だから黙っててね」

「はい」

自転車を置き、挨拶に向かう。

「おはようございます」

「おはよう」

警備隊長をしている高島さんに挨拶をする。

「今日の配置はどうなりますか?」

「いつも通りで良いよ。藤堂君はいつもの場所で良いからね」

「ありがとうございます。看板を持っていつもの場所に先に言って準備しますね。通行止めは九時からですね」

俺はそう言うと通行止めと書かれた看板を持って配置場所に歩き出した。

「おはようございます」

「おはよう」

現場の人たちと挨拶を交わしながら進んで良く。

リュックサックを木陰に降ろしALICEを取り出した。

「ALICE壊れている場所とか無い?」

ALICEのディスプレイはスクリーンセイバーが写っている。

「やっぱり暑い?」

「暑いです。それと節電です。節電」

「それじゃ、携帯電話とヘッドフォン取り外すね。この仕様だと携帯電話の電力消費まで補充すると思うからね。不必要な電力の消費は抑えないといけないね。バッテリーの維持に問題があるもんね」

「はい。家庭用電源の充電だとどうしても、充電が遅くなる事があります。故障の原因にもなりかねません」

「しゃべるのを止めたら?」

「それは駄目です。。隆一さんとの恋が分からなくなります」

「恋ねぇ」

「今馬鹿にしましたね」

「馬鹿にはしてないよ。人は恋愛のメカニズムを理解していないんだよ。だからALICEが理解するのは難しいかもしれない」

「人間の脳のエミュレーターが必要かもしれませんね」

ただ人と会話すると言うAIには負担のかかる事をさせているのに人間の脳まで分析されてたまるかと思う。これ以上ALICEには負担をかけさせれない。

「そんな問題じゃないと思うよ」

俺はALICEのカメラに微笑む。

「恋をして楽しい、不安になる、切なくなる、悲しくなる、幸せを感じる、いろいろな感情が混ざり合って恋になるんだよ」

「だから恋の歌って、みんなバラバラで統一感が無いんですね」

「たぶんね、人間だって、年がら年中恋をしている訳でも無いしね。だから恋に憧れるんだと思う」

「隆一さんは私に恋していますか?自慢の嫁なんですよね」

「なんでそうなる!」

「だって私こんなにも可愛いんですよ」

「二次元だし」

「酷いです。次元の壁は超えられないけど、みんなの嫁であるより隆一さんだけの恋人でいたいのに」

「良く照れずに言い切れるね」

「?どう言う事ですか?」

「詐欺師かよほど追い詰められた人間しか口にしない言葉だよ」

「?そうなんですか?。私の情緒がたりない所ですね」

「そうでも無いよ。十分立派だよ」

腕時計を見る。9時2分前だった。

俺は通行止めの看板を立ててリュックサックとALICEを看板の下に置く。それとペットボトルにお茶を凍らせたものを二つアリスの下に敷く。少しでも冷えてくれたらいいなと思ったからだ。

さぁ仕事の始まりだ。

                                    続く

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