第11話 ALICEとのちゃりデート

俺はALICEのノートパソコンと繋いだ携帯電話のレンズで街の風景を映している。

俺はマウンテンバイク風の自転車に乗り、街を走る。

マイクに話しかける。

「外の世界はどう?」

「自転車で風を切ると言うのはこういう事を意味したんですね。早いです。とても速いです。感覚フィードバックがついていない事が残念です。でも街並みがとても素早く流れます」

俺は指定された現場に向かって、自転車を走らせる。

ALICEは精密機械なので、いつもより丁寧にゆっくり走る。

こう言う時に物を言うのはマウンテンバイクの低速ギアだ。

自転車を軽く走らせる分にはちょうど良い。

「街並みが変わるとか、雲が流れるとか、風を切るとかいろいろ歌わせてもらいましたけど、実データが無いからしっくりとこなかったんです。情緒とか気分が分からなくて。ALICEのサーバーには自然の感覚をつかむ機能がありませんから」

ALICEの声がさみしげだった。

俺はちょっとしたいたずら心を走らせる。

交通量は多いけど、中環の高架の下をくぐってから少し池に挟まれた短い直線の道路がある。

「少し早さを感じてみる?」

俺はそう言うと、中間の速度のギアを入れ、自転車をこぐ。

少しずつ速度が上がっていく。

短い直線、300メートルぐらいを高速ギアに変えて、全力疾走をした。

「早いです。画像の処理が追いつかないですよ」

ALICEはとてもはしゃいだ声を出した。

楽しいらしい。

それなら良かったと心の底から思う。

「どのくらいで着くんですか?」

「竹ノ内街道と長尾街道を一直線で30分ぐらいだよ」

松原の駅前、ツタヤや万代の松原店がある道に近づいてくるので、スピードを最低速度の落とす。

「ALICEどうだった?」

「早いと言う感覚が分かりました。風を切ると言う事も何となく理解できます。これが速度なんですね。うまく歌えそうです。体感センサーとか付いていれば良いのに。データ上で分かっても感情で理解できないと意味がありませんけどね」

「それなら良かったよ」

「覚えておきますね。隆一さんと過ごした時間の全てを」

「えっ」

俺はその言葉に一抹の不安を感じる。

「とっても楽しいですから。隆一さんと過ごした時間は」

俺は不安を拭い去るように言う。

「商店街の中を通り抜けるから、少し静かにしていてね」

マウンテンバイクのギアを低速ギアにいれて、松原商店街をゆっくりと南側、駅の方に進んで良く。朝の時間帯で人も車も自転車も多い。

覚えておきますね。

隆一さんと過ごした時間の全てを

俺の頭をぐるぐるとその言葉が駆け巡る。

何か不吉な意味を持っているのかもしれないと感じる。

考えすぎだと生来の楽観的な部分で自分の感情を押し流す。

「その大丈夫なのか?」

「どういう意味ですか?」

「俺と過ごした時間を全て記憶しても。ハードディスク容量とかあるだろう」

「圧縮して整理しておきますから大丈夫ですよ。さっそくお嫁さんを心配するなんて良一さんは優しいですね」

「そんな問題なのか?」

「はい」

この人は何を言っているのだろうと不思議そうな声で返事をする。

問題が無ければ良いのだと自分を言い聞かせた。

ALICEは人間じゃない。だから大丈夫なのだろうと思う。

商店街の中で独り言を言うのは危ない人と思われる。黙っておこう。

踏切が近づいてきた。

「空って青くて広いんですね」

「人の話を聞いているのかな?」

「ごめんなさい」

「謝らなくて良いよ。でもちょっと黙っていてね」

「はい♪」

嬉しそうなALICEの返事が返ってくるのだった。

                              続く                    

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