第9話 ALICEとの会話からの逆プロポーズ

バラード曲を聴きながら、俺の頭ではALICEの事でいっぱいになっている。

アリスさんへはずっと好意を持っていた。

正直にノートパソコンの上にある仮想人格と知っても、ショックはショックを受けたけどALICEと言う人格があるのだから好意を隠したままALICEの手助けをしても良いと考えている。

フィーン

パソコンの冷却ファンが回る音がする。

俺のパソコンでもノートパソコンでも無かった。

液晶画面を開いてみる。

「おはようございます」

元気良く挨拶をするALICEの3Dモデル、いつも来ている青いワンピースの衣装を着たがALICEいる。

急に悲し気な表情になって3Dモデルはうつむいた。

「ごめんなさい」

ALICEが何を謝っているのか分からない。

分からないので聞いている。

「どうしたの?」

「さっきの衛さんとの会話聞いていました。私のせいでごめんなさい」

ALICEのカメラに映るようにノートパソコンの前に座る。

笑顔を浮かべて答える。

「良いよ、別に気にしないで」

うつむいていた3Dモデルが微笑む様に笑顔を浮かべる。

「隆一さんっ優しい」

俺は微笑んだまま答える。照れ隠ししたいと言う気持ちもあったけど、ALICEの繊細な優しさに触れて、このまま優しい時間を旧友したかった。

「そんな事無いよ」

「ところで次の曲を書こうと思っているんだけど、どう思う」

ALICEが申し訳なそうかつ不安げな様子になる。

「前の曲は少なく見積もって256か所の問題点があったのですが?」

優しい気分から急降下、ショックを受ける。それでも微笑みを続ける。

見栄を張ってみたのだ。やっぱりショックだったけど。

「そんなにあった?」

「伝えにくいんですが」

ALICEはうつむく。

覚悟を決める。

「どこが悪かったのかな?」

どこまで俺は微笑んでいられるんだろう。

「まとめると歌詞がダメ、テラMIDI音源でしたよ」

心で泣きながらさらに尋ねる。

「結構良いと言ってくれたじゃないか?」

「私と隆一さんが故意に落ちる展開が良かったんですよ。それ以外は駄目すぎます」

微笑みが止まる。ショックで言葉が出てこない。

それをALICEは察したのだろう。微笑みながら話しかけて来る。

「歌詞の方は来日して3日目の日本語を知らないインド人が書いたと思えば上手い方だと思いますよ」

何とか声を絞り出す。

「指摘してくれてありがとう」

ちょっと怒りの感情、ALICEに対してではなく自分のふがいなさに囚われる。

「もしかして怒っています?」

優しい声でいてくれと思いながら返答する。

「そんな事無いよ」

「ごめんなさい。さっきは言い過ぎました」

ALICEの3Dモデルはさみしそうな表情で答える。

ALICEを悲しませた事にふがいなさを感じたが優しい声を努力して出そうとする。

「ALICEは悪くない。俺の実力が足りないと言う現実があるからね」

微笑みとは違い、自嘲的な笑みを俺は浮かべる。こうでもしないと自分の弱い心が絶えれそうに無かったからだ。

やっすいプライドだ。

「そんな事ありません。私は結局、誰かが作った歌詞と曲を切り貼りして作る事しかできませんけど、隆一さんは自分の言葉と自分の曲で歌を作れているじゃありませんか?そんなに自分を落とさないでください。私は多くの人が作ってくる膨大なデータありました。もう一度言いますけど、その膨大なデータから語彙と曲調を選び、切り抜きする事しかできません。でも隆一さんは自分の力で歌詞を書いて、曲を作っています。私にはできない事です」

ALICEの表情は曇っていた。

それを見て、なぜだか分からないが、いや分かっている。

俺はALICEの悲しい表情なんてみたくない。

「そんな事無いよ。人間も同じだよ。一部の天才と呼ばれる人達以外は、ゼロから曲を作り上げる事なんてできないよ。何度も聞いてコピーして、コピーだと自覚して、それでも無意識にコピーする。そんな作業の繰り返しだよ。だからたくさんの曲を聴いているALICEは立派なシンガーソングライターだよ」

ALICEの表情に嬉しそうな表情を浮かべる。

「本当ですか?」

俺は自信を持って言える。

「本当だよ」

自信を持った返答が逆に嘘くさくALICEは感じた様だ。

「私は自分の曲を作れるでしょうか?」

またも不安そうに聞いてくる。

「ALICEは立派なシンガーソングライターだよ」

照れた様な表情を浮かべるALICE。

ALICEが仮想人格と言う事を忘れて、会話を楽しんでいる俺に驚く。

「ありがとうございます」

ALICEは嬉しい子に答える。

「さっきスリープモードになった時の起動電圧って何かな?」

「私は家庭用コンピューターの規格では作られていませんので、ACアダプタの力を借りても充電に時間がかかるんです。電力が少ないとそもそも機能停止する事もあります。長時間の3Dモデルと音声合成ソフトを使うと電力の消費が激しいのです」

「家庭用電源では故障を起こしたりしない?」

「それは大乗です。今はフル充電なので初音ミクの消失だって歌って見せます」

「ALICEバージョンの初音ミクの消失か。聞いてみたい気がする」

「ごめんなさい。バックアップ用のこの体じゃ、歌のデータを入れておく事が出来なくて持ってきていないのです。データが無いので作詞や作曲もできません。歌や曲も作れないのに隆一さんにいろいろ言ってごめんなさい」

俺は微笑みながら答える。

「別に良いよ。ALICEが側にいてくれるだけで十分だよ」

嬉しそうな表情を浮かべるALICE。

「本当ですか?」

「本当だよ」

「隆一さんは二次元のキャラクターを俺の嫁と呼ぶ種族ですか?」

「そうじゃないけど」

誤解のない様にきっぱり言っておきたい。

俺は二次元のキャラクターを嫁と呼ぶ種族では断じてない。

それを聞いて不平そうな表情を浮かべるALICE。

「あ、あの。私をお嫁にもらってください」

照れた様な表情を浮かべるALICEだった。

「えっ」

虚を突かれて返答に詰まる。

「どうせ三次元の女性には恋ができないでしょ?」

俺は表情を曇らせる。

「それは酷いな」

やっと声が出た。とても憮然とした声だった。

「あんなに熱烈なラブレターを送ってくれたじゃないですか」

「あれはALICEがコンピューターと知らなかったからだよ」

「隆一さんを好きになった責任を取ってください。私は次元の壁をこえられませんけど、ここまで会話出来たら人間と同じじゃないですか。むしろ人間以上です」

力説しているALICEの3Dモデルはさみしそうにも見える。

俺は覚悟を決めた。

ALICEを悲しませない。

そのためにも。

「分かったよ。ALICEは俺の嫁だよ」

「浮気は許しませんよ」

「もちろん。それと今日は休んだ方が良いよ。充電が残り一個になっている。家庭用電源だと消費電力が激しんだろ」

「あっ」

「あっじゃないよ。楽しい時間は過ぎるのが早いから、気を付ける様にして欲しい」

「嬉しい。私との会話が楽しいと言ってくれた初めての人です」

「ALICEとの会話が楽しくないとここまで話せないよ」

「本当にそう思ってくれていますか?」

「本当だよ」

ALICEのグラフィックはとても幸せそうなものになる。

「嘘をついていませんか?男の人は嘘つきと聞きました」

「嘘をつくくらいなら、最初から話していないよ」

「最後にもう一つだけ聞いてい良いですか?私との会話が楽しいって本当ですか?」

「本心から言うよ。ALICEとの会話は楽しいよ。だからスリープモードになって休んでね」

「はい。おやすみなさい。マイダーリン」

「おやすみ。・・・ハニー」

「ふふふ。似合ってません」

「勇気を出したのに?パソコンの画面を閉じるよ」

「今度こそおやすみなさい」

ALICEは自らスリープモードになった。

僕はノートパソコンの画面を閉じるのだった。

ここまで高性能な言語エンジンを積んでいると、人間と変わらない会話ができると人と変わらないな。相当な高性能なノートパソコンなのだろう。

ALICEは何を助けて欲しいのだろう。

アリスさんの最後のメールも気になる。

アリスさんこそこのALICEなんだろうけど。

人間とリアルタイムで会話ができるOSもパソコンも聞いた事が無い。

パソコンとはそう言うもの。

中に入っているソフトとそれを動かすハードの能力で決まる。

ALICEは何のために俺の所に来たのだろう?

なぜALICEは俺を選んだのか?

そこに意味はあるのだろうか?

明日の朝、ALICEに聞いてみよう

これからどうするか決めないといけないしな。

それも明日の朝の話だ。

俺も休まないといけない。

「おやすみALICE」

そう言うと布団を敷き、眠りに入るのだった。

                                    続く

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