第16話 成績発表
そこには10数名ほどの生徒たちが既に屯していて何やかやと論じ合っている。その陰からそっと模造紙を覗いてみると、何と、この俺の名前が最右端に記されてあった。「村田建三郎」と確かに一番右に記されてある。俺は「やったー!」とばかり心中で舞い上がり、且つ顔が紅潮してくるのを止められなくなった。今度こそはこの俺が一番である。無視できるものならしてみるがいいという気にさえもなる。まったく、中学時代以上の立派な成績をこうして都度示しているのに、なんで皆は俺にチヤホヤしないんだ?俺を持ち上げようとしないんだ?…が正直なところだった俺に憤懣のやる方などありようもなかった。今度こそはそういうことはあるまい、ここからが中学時代の再来となる、ようやく花の高校生活の始まりだ…などと妄想したその瞬間は、確かに高校時代におけるその指向での最幸福な一瞬だったろう。しかしその直後にそれとは真反対の、恰も崖下に突き落とされるような、最悪の体験が迫っていることまでは、その時はまだ気づかないでいた。俺は何とか気の高まりを抑えながらやおら廻りの生徒たちの反応に気を配り始めた。耳に心地よいに違いない皆の反応を聞こうと、その耳をそばだてたのである。まず前にいた男子生徒二人連れの会話。「村田?村田って誰だい?」「知らねえなあ、そんなやつ」にしかしガクッとくる。知らないとは何だ!?いやしくも入学来一年近くを共に校門をくぐった仲ではないか…などと心中で抗議したが、もっとも普段“教室内ニート”をしていた我が身に照らせば彼らの反応も仕方ないかとも思ってしまう。第一こっちだってその二人の顔を知らなかったのだから(普段から歩く時は下ばかり向いていて他人の顔を見ないのだ)。
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