第10話 また孤独の蟻地獄に

それは何かというと一言で云えば「自分本位」か「他人指向」かということであり、それが云い過ぎであれば「自分のことばかりしか考えてない」か「他人に目が行き、思いやれる」かと表現してもいいが、とにかくそのことである。幼児であれば100%、小学生であれば80%、中学に至れば60%という具合に減らして行く、あるいは自然の内に減少すべき「自分がすべて」もしくは「すべてにおいて自分が優先」指向を滅らし行くことに、まったくと云っていいほど俺は目が行っていなかった。そこには中学時代の劇的な成功体験があり、その裏返しのようだった幼児と小学時代の悲惨さとうっ屈があったのだが、それにしてもそこでプラマイの帳尻を合わせただけで、前記・他人指向へと少しでも進み得なかったのは、これひとえに自責に帰すと云うほかはない。またそれ加えるにちょうどこの時期家が転居して、それまで親しくしていた中学時代の友人たちと皆別れ別れになってしまったことも大きかった。それまで母が何回も申し込んでいた市営団地入居が川崎市内の北部に決まり、同市南部に幼児から居住していた俺は友人たちと同じ学校に進学できなくなってしまったのだ。北部と南部では学区が異なるのだそうである。しかしそうすると畢竟中学入学時の再現となってしまい、中学時の友人たちが一人もいない、全員がストレンジャーばかりの中で俺は再び自らをアピールせねばならなくなった。ところがここで前記したボタンの掛け違いや、自分のことばかりに目が行くという悪癖が出て、結局否応なしに、小学時代の孤独という蟻地獄の中に、再び三度俺は沈み行くこととなってしまうのだ。

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