第三十五話

 そして、バレンタインデーがやってきた。午前の授業が終わると私は常治じょうじ先生に、チョコレートを渡した。そして午後の授業が終わると、萌乃もえの先生はチョコレートを私たちにくばり始めた。

「五年生のみんなには、先生の手作てづくりチョコレートをあげます。どうかな? 美味おいしいかな?」


 早速さっそく、小さな紙袋かみぶくろからチョコレートを取り出し、食べた翔真しょうま感想かんそうを言った。

「先生の手作りチョコレートは、とっても美味しいでーす!」


「ありがとう、翔真君。それじゃあ、二人はどうかな?」と萌乃先生は、私と宗一郎そういちろうの顔を見た。チョコレートを食べた私は、素直すなおに感想を答えた。

「美味しいです……。ものすごく……。あますぎなくて、ちょっとにがみもあって……」

 宗一郎も、「うん。美味しいです、先生!」と答えた。


 すると萌乃先生は、ウインクした。

「それじゃあ、ホワイトデーのおかえしを期待きたいしてるからね、宗一郎君、翔真君。あと、チョコレートをあげちゃったから、春花はるかちゃんもね!」


 私はコンビニで買ったチョコレートなので気がけたが、萌乃先生にあげた。すると萌乃先生は、「ありがとう、春花ちゃん」とおれいを言い私たちのテーブルからはなれて、先生たちが集まっているところに行った。


 それを見届みとどけると、宗一郎が呼びかけた。

「それじゃあ萌乃先生からチョコももらったし、帰るか、翔真?」


 翔真も笑顔で、「うん」と答えてイスから立とうとした。私は必死で、「ちょっと待って!」と二人を止めた。

「え?」と、翔真の動きが止まった。私はバックからチョコレートを、二つ出した。


 まず宗一郎に、「これ、あんたに」と一応いちおう、ラッピングしてあるチョコレートを渡した。そして翔真にも、「はい。あんたには、これ」と少しラッピングがしてあるチョコレートを渡した。


 宗一郎は、「まさか春花からチョコレートをもらうとは、思わなかったなあ……」とつぶやいてチョコレートを出した。すると、「何だこれ! コンビニで売ってるチョコじゃん! 手作りじゃないじゃん! だまされたー!」と、ほざいた。


 私は、わけした。

「あんたは手作りのチョコレートでも、平気で『マズイ』とか言いそうだから! 

 コンビニで売ってるモノなら、味も保証ほしょうされてるでしょう?」


 すると私が翔真に渡した小さな箱を見て、宗一郎が聞いた。

「あれ? 俺のとは、違うなあ……。翔真、そのチョコレートを見せてみろよ!」


「うん!」と翔真は、チョコレートを箱から取り出した。ハート形のチョコレートをを見た宗一郎が、叫んだ。

「何これ? 手作りのチョコレートじゃん! 差別さべつじゃん! お前、俺と翔真を差別してるじゃん!」


 またも私は、言い訳した。

「差別じゃないわよ! 翔真には私の手作りのチョコレートの、実験台じっけんだいになってもらっただけなんだから!」


「えー? 本当かー?」と宗一郎は、うたがいの目で私を見た。ちょっと都合つごうが悪くなってきたので、私は翔真をせかした。

「だから、早く食べてみてよ! 翔真!」


 すると、「うん!」と答えて翔真は食べだした。そして笑顔で、言い放った。

「うん、美味しい! 萌乃先生のチョコレートと同じくらい美味しい!」


 私は萌乃先生のチョコレートと比べられて、ちょっとイラっとした。それが顔に出たのだろうか、ふと宗一郎を見るとニヤニヤしていた。だから私は、更にイラついた。


   ●


 ホワイトデーの日がきた。すべての授業が終わると早速、翔真は萌乃先生にクッキーを手渡てわたした。

「僕はクッキーを手作りできないから、おこづかいで買ったんだ! 先生、食べてみて!」


 翔真のクッキーを食べた萌乃先生は、よろこんだ。

「とっても美味しいですよ、翔真君!」

「えへへ~」


 すると宗一郎も、萌乃先生にクッキーを渡した。

「俺も手作りはできないから、買ったやつだけど……」


 宗一郎のクッキーを食べた萌乃先生は、やっぱり喜んだ。

「これも美味しいよ、宗一郎君!」

「ど、どうも……」

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