第三十四話

 節分せつぶんの日が、やってきた。授業じゅぎょうが終わると、まめをまくことになった。萌乃もえの先生が、まき方を教えてくれた。

ふくうち! おにも内! とさけんで豆をまきましょう。鬼を追い出したら、かわいそうですからね」


 私は小学校で節分では、『福は内! 鬼は外!』と叫んで豆をまくと教わった。だから『鬼も内!』というのは、大海たいかいっぽいなあと思った。スマホでググってみると、鬼というが入る場所では、同じように『鬼も内!』というらしい。群馬県ぐんまけん藤岡市ふじおかし鬼石おにし栃木県とちぎけん鬼怒川温泉きぬがわおんせんなど。また鬼をまつってある神社でも、やはり『鬼も内!』というらしい。


 大体だいたい人種差別じんしゅさべつ問題視もんだいしされる現在、鬼というだけできらうのも、どうかと思う。鬼にも人権じんけん、いや鬼権おにけんがあるのではないか。


 鬼といえば桃太郎ももたろうを思い出すが彼は、『きびだんご一つで重労働じゅうろうどうをさせられた。労働最低賃金ろうどうさいていちんぎんをもらえなかった』と犬、サル、キジにうったえられた人物である。たたけばほこりが出る、はんグレと言っても過言かごんではないのだ。私は思う。やはり桃太郎のやり方は、間違っていたと。では桃太郎は、どうすれば良かったのか?


 まずは、証拠固しょうこがためである。サルに命令して、『鬼に財宝ざいほううばわれた』という証言しょうげんを集めるのだ。更にキジに命令して、鬼ヶ島おにがしまにその財宝があるのか確認かくにんさせる。そのうえで犬に命令して、警察けいさつ通報つうほうする。警察もこれだけの証拠があれば、動かざるをえないだろう。そして警察が家宅捜査かたくそうさくして、鬼ヶ島の財宝を回収かいしゅうする。そして警察からご褒美ほうびに、自分の報酬ほうしゅうを受け取る。もちろん犬、サル、キジにも報酬を分け与える。うむ。これが令和れいわの正しい桃太郎だ、と私は納得なっとくした。


 そして「福は内! 鬼も内!」と叫んで豆をまいていると、宗一郎そういちろう翔真しょうまにからまれた。

「うわー、鬼よりこわやつがいるぞ! 昼食担当主任ちゅうしょくたんとうしゅにんの鬼だー!」

「本当だ~。鬼のおめんをする必要がないね~」


 二人に向かって豆を投げながら、私は叫んだ。

「うるさーい! 鬼じゃなくて、お前たちが出て行けー!」


   ●


 バレンタインデー前の日曜日。私は台所だいどころで、眉間みけんにしわをせていた。


 去年きょねんのバレンタインデーはちょっと気になる男子にチョコレートをあげようかな、とコンビニでチョコレートを買って準備じゅんびしていた。しかしバレンタインデーの当日とうじつその男子が、あまりにも多くの女子からチョコレートをもらっていたのでわたす気が無くなって、結局けっきょくお母さんにあげた。


 今年は取りあえず、四人にあげようと思った。宗一郎と翔真と萌乃先生と常治じょうじ先生。私は、考えた。宗一郎と萌乃先生と常治先生のチョコは、コンビニで買おうと。そして翔真にだけは、手作てづくりのチョコレートをあげようと。


 いやいや、ふかい意味とか無いから。ただ大海に通って料理をするようになったから、自分がどこまで美味おいしいチョコレートを手作りできるかどうか、ためしてみたいだけだから。


 それにこの間、翔真は気づいてないかも知れないけど、私をはげましてくれたから。だからそのおれいもあるから。私がお礼もしない失礼しつれいな女子だと思われてもこまるから。それから、それから……。


 とにかくあれよ、実験じっけんよ、実験! 私の手作りのチョコレートが美味しいか美味しくないかの実験よ! まあ、手作りっていっても、スーパーで買った板チョコをかしてハート形のチョコレートにするだけだけど……。うーん、それでいいのかな? ちょっと一味ひとあじした方がいいのかな? でもそれでまんが一、美味しくなくなっちゃったら困るし。うーん……。


 いや、いい。今年、初めて手作りチョコレートを作るんだから、まずは手堅てがたく行こう。溶かしたチョコレートを、ハート形にするだけにしよう。一味加える冒険ぼうけんは、来年らいねんからにしよう。

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