第二十四話

 私は少し、おどろいた。

「え? そうなんですか?」

「そう、私も小学校でイヤなことがあってかよえなくなってね……」

「そうでしたか……」

「でも面白おもしろいでしょ? 大海たいかいって?」

「まあ、そうですね。面白いというか、変わってるというか……」


 すると、ななみさんは小さく笑って続けた。

「変わってるか、確かにそうだよね。でも居心地いごこちはいいと思うんだ」

「確かに、そうですね。居心地はいいです」

「でも変わってるのは確かだから、こまったことがあったら先生や私たちに相談そうだんするといいよ」

「はい。ありがとうございます!」

「いいって、いいって。私も大変だったから。大海に入学してれる前に、この『おとまかい』に参加することになって……」


 私は、心からの感想かんそうを告げた。

「それは大変たいへんでしたねえ……」

「うん。でもあの時も今と同じように、この寝室しんしつで高校生の先輩が言ってくれたの。『困ったことがあったら、私たちをたよりなさい』って」

「そうだったんですか……」

「だからさっきも言ったけど、何かあったら私たちに頼ってね!」

 そう言われた私は心強こころづよくなって、元気に返事へんじをした。

「はい!」


 すると次の瞬間しゅんかん優希ゆうきさんが寝室に入ってきた。

「ななみさん。女子と男子は全員、それぞれの寝室に入りました」


 そして寝室のドアの、かぎをかけた。

「そう、ご苦労様くろうさま。今日は班長はんちょう担当たんとうして、つかれたでしょう。明日も大変だから、早く休むといいわ」

「はい」とゆかいてある布団ふとんに入った優希さんは、「おやすみなさい」と告げた。


 それを聞いたななみさんは、つぶやいた。

「さあて、今夜はどうなることかしら?……」


   ●


 午後九時。女子サイド。


 私は、寝室をノックする音で目がめた。


 何だろうと思って目をこすっていると、ななみさんが大きな声で聞いた。

だれ?! そこにいるのは?!」


 するとドアの向こうから、男子の声がした。

「僕だよ~。隆太りゅうただよ~」


 少しイラついた声で、ななみさんは聞いた。

「隆太君? 一体いったい、何の用なの? こっちはみんな、寝てたんだけど?!」

「まだ、午後九時だよ~。夜はこれからじゃないか~」


 更にイラついた声で、ななみさんは聞いた。

「一体、どういうこと?!」


 隆太さんは、ねこなでごえさそってきた。

「僕は、トランプを持ってきたんだ。一緒いっしょにやろうよ~? このドアを開けてよ~?」


 ついに、ななみさんはキレた。

「バカなこと言ってないで、早く寝ろ! 明日も大変たいへんなんだから!」


 そしてまくらをドアにぶつけた。

『バン』という音にひるんだのか隆太さんは、「そうか~、それじゃあ一旦いったん退散たいさんするよ~」と言いのこして、ドアの前からっていったようだった。


 私は、ななみさんに聞いてみた。

「あの、今のは一体?……」


 ななみさんは、冷静れいせいに答えた。簡単かんたんに言うと、男子はバカってこと! 数年に一度はバカな男子が、女子の寝室に入ろうとするの。いつも高等部の女子にかえされるのに。今年はどうなのかと思ったけど、隆太君がきただけでんだか。まあ、隆太君は勉強はできるんだけど、何て言うか考え方がバカなのよねえ、と。


 私は、取りあえず納得なっとくした。

「はあ、そうなんですか……」


 少しすると、ドアの向こうから音楽と手をたたく音が聞こえてきた。すると、ななみさんは宣言せんげんした。

「これはまあ、寝る前にBGMだと思いましょう。おやすみ!」

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