第十九話

 まずは『感染症爆発時かんせんしょうばくはつじ給付金きゅうふきん罰則ばっそくをともなう、外出禁止令がいしゅつきんしれいについて』、『自国じこくでのマスク製造の必要性』、『今後、感染症爆発が発生した場合の対処法たいしょほう』。次は『未成年者みせいねんしゃ成人せいじん恋愛れんあいの問題点』、『LGBTQに対する差別さべつについて』。更には『夫婦別姓ふうふべっせいのメリットとデメリット』などだ。


 私は、素直すなおに思った。これは、ニュース番組だ。いつも朝食や夕食を食べながら横目よこめで見ていた、ニュース番組だと。宗一郎そういちろう緊張きんちょうしていた表情を思い出した。確かにこんなレベルの発表を見せられたら数年後、自分たちは大丈夫だいじょうぶなのかと不安になった。しかしその不安も、軽くなった。


「それでは皆さん、ご苦労様くろうさまでした。皆さん、とても良くできました。なので文化祭恒例ぶんかさいこうれいの、『ご苦労様バーベキューパーティー』です。先生たちがどんどん焼くので皆さんは、どんどん食べてください!」という草間くさま先生の言葉を聞いて。先生たちは皆、笑顔で豚肉ぶたにくや野菜を焼き始めた。


 大海たいかいの先生たちは、何か問題が起きてもちからになってくれる。そんな先生たちと一緒いっしょなら、どんな困難こんなんでも乗り切れそうな気がした。


 草間先生は紙皿かみざらに豚肉とトウモロコシとピーマンとタマネギとキャベツをせると、大きな声で告げた。これから一人づつに紙皿を渡すので、受け取ってください。豚肉はタンパク質とビタミンBが豊富ほうふで、疲労回復ひろうかいふく効果こうかがある。トウモロコシは糖質とうしつが豊富で、のうや体を動かすエネルギーになる。ピーマンはビタミンCが豊富で、風邪かぜ予防よぼうに効果がある。タマネギは硫化りゅうかアリルが豊富で、血をサラサラにする。キャベツには、を守ってくれる栄養えいようが入っている。なので紙皿に載っている食べ物を全部、食べるようにと。


 そして草間先生は、生徒一人一人に紙皿を渡し始めた。だが紙皿を受け取った私は、こまった。私はタマネギの、あのからみが苦手にがてだったからだ。すると宗一郎が近づいてきた。

「よう、春花はるか。俺のピーマン、食ってくれねえか?」

「え? どうして?」

「俺、苦手なんだよ。にがいピーマンが……」

「なるほど……」


 少し考えてから、私は提案ていあんした。

「それじゃあ私のタマネギと、あんたのピーマンを交換こうかんしない?」

「何でだ?」

「私はピーマンは食べられるけど、タマネギは苦手だから。苦手な物を交換すると、それを食べなくてもむでしょ?」

「なるほど!」


 そして私と宗一郎はタマネギとピーマンを交換して、おたがいに苦手な食べ物を食べずに済んだ。ふと見ると翔真しょうまは、萌乃もえの先生と一緒いっしょに紙皿に載っている物を全部、食べていた。


 私は、やれやれ、これで文化祭もやっと終わったかと一安心ひとあんしんした。しかしそんな私のあまい考えをき飛ばす、あるイベントが発生はっせいしようとしていた……。


   ●


 十月上旬。昼ご飯を食べ終わった宗一郎は、深いため息をついた。私は思わず聞いた。

「どうしたのよ、宗一郎。ため息なんて、あんたらしくないわよ?」


 もう一度ため息をついてから、宗一郎は答えた。

「お前も知ってりゃ、ため息くらいつくよ。今年ももうすぐ、『あれ』があるはずだからな……」

「え? 『あれ』って何?」

「多分、今日あたり草間先生から発表があるよ……」と宗一郎は、またため息をついた。


 その日の授業が全て終わると、草間先生から発表があった。

「えー、それでは皆さんに発表があります。今年もこの時期じきがやってきました。

 そうです! 『おとまかい』です! ちなみに期間きかんは明日の朝から四日目の朝までの、正味しょうみ三日間です! 皆さん、三日間、楽しんできてくださいねー!」


 草間先生が発表した後、教室がざわついた。私も明日からとは急な話だなとは思ったが、教室がざわついたのは別の理由だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る