第十八話

 私は、少し考えてから選んだ。

「私は、『つくる責任せきにん 使う責任』を自由研究じゆうけんきゅうのテーマにしようかな。最近はスーパーのレジぶくろを使わないで、エコバックを使う人が増えてるから。

 これからプラスチック製品せいひんをできるだけ使わないようにするには、どうしたらいいか考えればいいと思うの! それがこれからの『使う責任』だと思うの!」


 宗一郎そういちろうが続いた。

「俺は、『平和と公正こうせいをすべての人に』をテーマにしようと思う。将来しょうらい弁護士べんごしになりたいと思ってるからな。こまっている人に、より身近みじかな弁護士になるのはどうしたらいいか、考えればいいと思うんだ」


 こうして私と宗一郎の自由研究のテーマは決まり、夏休みの最終日の夜に自由研究は終わった。夏休み明けに大海たいかいに行って草間くさま先生の前で発表したが、三人とも合格点ごうかくてんをもらった。


   ●


 九月中旬から文化祭ぶんかさい準備じゅんびが始まった。文化祭の一週間前から大海の生徒たち全員は、夏休みの自由研究を地域ちいきの人に発表する練習をした。これには草間先生の並々なみなみならぬ思い入れを感じたが、同時にここまでやるかと少しいた。


 取りあえず夏休みの自由研究は草間先生の判断で、五人がやりなおしになった。しかし五人とも二回目の自由研究で、合格点をもらっていた。

「今年は皆、優秀ゆうしゅうですね」という草間先生の言葉が、逆にこわかった。はっきり言ってこれは、下手へたな学校よりもきついのではないか、とさえ考えた。


 自由研究の内容ないようをまとめたプリントを三十部、印刷いんさつした。更に一メートル四方の大きな用紙ようしにまとめて、皆の前で発表する練習もした。


   ●


 そして九月下旬の文化祭当日。今日は大海の教室が、自由研究発表の場に変わった。きてくれた地域の人にプリントを渡した後に、大きな用紙を使って発表した。

 私は小学五年生の中で一番初めに発表することになったのだが、しっかりと練習をしていたのでミスが無く発表できた。地域の人たちから温かい拍手はくしゅをもらった時はうれしく、また『ほっ』とした。


 午前中は小学四年、五年、六年と、中学一年、二年生が発表した。半分以上の生徒がSDGs(エスディジーズ)をあつっていて皆、考えることは一緒いっしょなんだなあと思った。


 昼休み。いつもの三人で昼食を食べていると、宗一郎は緊張きんちょうした表情で語った。

「いよいよフリースクール大海の、夏休みの自由研究発表会の本番が始まるぞ」


 私は、それってどういうこと? と思ったので聞いた。

「え? それ、どういうこと?」


 宗一郎は、むずかしい表情で答えた。

「まあ、お前も一度見てみればわかる。午後からは中学三年、高校一年、二年、三年生の発表だが、はっきり言って俺たちとはレベルが違う。発表を聞く人の数も増える。

 何しろこのために中学三年以上は金曜日に、この一週間で気になったニュースを授業中に発表するんだからな……」


「え? 何それ?」と私は、期待きたい不安ふあんで午後の発表会を見ることになった。


 午後の発表会が始まった。宗一郎が言った通り、地域の人の数が明らかに増えた。そして午後の発表、すべてを聞いた私は不安になった。私が大海で中学三年、高校生になったら、こんな難しい発表をしなくてはならないのかと。


 宗一郎が言った、『レベルが違う』という言葉を思い出した。私は発表前に渡されたプリントを見ながら、発表を思い出した。

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