第十七話

 すると翔真しょうまは、信じられないことを言いはなった。

「あるよ~。僕たちが、大人になればいいんだよ~。そうすれば夏休みの宿題を、しなくてもよくなるよ~」


 私と宗一郎そういちろうは、顔を見合みあわせてから聞いた。

「な、何、言ってんの、あんた?」

「そうだ! ちゃんと説明しろよ!」


 そして翔真は笑顔で、とんでもない事実じじつを言い放った。

「お父さんとお母さんに聞いたんだけど、衝撃しょうげきの事実が分かったよ~。大人の夏休みには、宿題が無いんだって~。遊び放題ほうだいなんだって~」


 私と宗一郎は、気絶きぜつするほどのショックを受けた。しかし気絶している場合ではない。この怒りを、私たちはき放った。

「大人の夏休みには宿題が無い、だと?……。そ、そんなバカな……。

 夏休みの宿題は、全人類ぜんじんるい背負せおった試練しれんじゃないのか?! 夏休みに遊びほうけないっように、神があたえた試練じゃないのか?!」

「あー、もー! 一体、何をしんじたらいいのか、分からないわー!」


 宗一郎は、いかりの表情で言い放った。

「つまり、こういうことか? 子供が夏休みの宿題で苦しんでいる時に、大人たちは遊びほうけていると……。おそろしい、何て恐ろしい国なんだ、日本にほんは! そして不公平ふこうへいだ!

 一体、みんなは、何をしているんだ?! 大人の夏休みに宿題が無いのなら、子供の夏休みの宿題も無くすべきだ! これは日本の根幹こんかんにかかわる、重大なことだ!」


 私も、言い放った。

「取りあえず、私たち小学生は団結だんけつするべきよ! 皆で、デモ行進こうしんをするべきよ! 『子供の夏休みの宿題を無くすべきだ』って。今こそ立ち上がれ、全国の小学生!」


 自由研究じゆうけんきゅうのテーマが全然、決まっていないあせりで私と宗一郎は、少しこわれていた。


 怒りを解き放ったものの、そんなことは不可能ふかのうだと分かっていたので私たちには、むなしさしか残らなかった。宿題が無い夏休みを、大人たちがゆるすはずがない。


 何でも大人おとなたちには、子供に教育きょういくを受けさせる義務ぎむがあるらしい。そのためか大人はスキあらば子供に、勉強をさせようとする。夏休みの宿題に関しては、大人と子供の仁義じんぎなき戦いが永遠えいえんに続くのだろう。


 すると宗一郎は、つぶやいた。

「なあ、何で俺たちは自由研究でこんなに苦しんでいるんだ? 自由って、好きなことをしてもいいってことじゃないのか?……。

 自由って一体、何なんだろうな……。何で自由なのに、こんなに苦しいんだ?……」


 私はスマホでググって、読み上げた。

「自由。他からの強制きょうせい拘束こうそく支配しはいなどを受けないで、自らの意思いし本性ほんしょうしたがっていること、だって……」


 宗一郎は、弱気よわきになった。

「そうだよねな。自由ってそういう、良いものなんだよな。なのに俺たちは……」


 翔真がいつも通り何も考えていなさそうな表情をしていたので、私はつい当たってしまった。

「もう、翔真ったら自分の自由研究が終わったからって、余裕よゆうをかますなんて! ちょっとは私たちを助けてよ!」


 すると翔真の口から、神託しんたくげられた。

「ねえ、二人とも。SDGs(エスディージーズ)って知ってる?」


 取りあえずググってみた宗一郎は、目をかがやかせた。SDGsは、持続可能じぞくかのう開発目標かいはつもくひょう略称りゃくしょうだ。二〇一五年の国連サミットで採択さいたくされたもので、国連加盟国こくれんかめいこく一九三カ国が二〇一六年から二〇三〇年の十五年間で達成たっせいするためにかかげた目標もくひょうである。


 宗一郎は、よろこんだ。

「いけるんじゃね? これ、使えるんじゃね?」


 私も、国連とか何かえらい人たちが関係かんけいしていることなら、自由研究に使えそうな気がした。だから私も、ググった。すると何となく、分かった。


 SDGsの具体的ぐたいてきな目標は、十七ある。貧困ひんこんをなくそう、飢餓きがをゼロに、すべての人に健康と福祉ふくしを、しつの高い教育をみんなに、ジェンダー平等びょうどう実現じつげんしよう、安全な水とトイレを世界中に、エネルギーをみんなに そしてクリーンに、働きがいも経済成長けいざいせいちょうも、産業さんぎょう技術革新ぎじゅつかくしん基盤きばんをつくろう、人や国の不平等ふびょうどうをなくそう、み続けられるまちづくりを、つくる責任せきにん 使う責任、気候変動きこうへんどうに具体的な対策たいさくを、海のゆたかさを守ろう、りくの豊かさも守ろう、平和と公正こうせいをすべての人に、パートナーシップで目標を達成しよう、だった。


 すると翔真は、説明した。実は翔真は、『エネルギーをみんなに そしてクリーンに』という目標から、自由研究のテーマを考えたと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る