第十六話

 次の日から私は、本気で自由研究じゆうけんきゅうのテーマを考え始めた。しかしレベルが低く草間くさま先生を納得なっとくさせなければやりなおしというプレッシャーで、良いアイディアは浮かばなかった。そして憂鬱ゆうつな夏休みは一日一日と過ぎていき、ついに最終日になった。


 私はワラにもすがる思いで、LINEをした。

『自由研究はどう? 翔真しょうま宗一郎そういちろう?』

『うん。僕は、燃料電池ねんりょうでんち可能性かのうせいについて研究したよ。もう火力発電所かりょくはつでんしょ原子力発電所げんしりょくはつでんしょなどの大規模発電所だいきぼはつでんしょは、時代のニーズに合っていないと思うんだ。二酸化炭素にさんかたんそ排出はいしゅつと安全性の問題で。

 その点、燃料電池は二酸化炭素を排出しないし安全だよ~。だからこれからは一戸建いっこだての家には小型こがたの燃料電池、マンションやビルには中型ちゅうがたの燃料電池が使われるんじゃないかと思うんだ~。これで僕の夏休みの宿題は、全部終わったよ~』


『俺は、まだだ……。ドリルは何とか全部終わったが、自由研究が全然できてない……』

『私もそう。自由研究のテーマすら、決まってないの……』

『どうしたもんかなあ……』


 私は取りあえず、提案ていあんしてみた。

『ねえ。取りあえず三人で、だれかの家に集まってみない? 一人で考えても、良いアイディアは出ないし……』

『そうだな、その方が良いかもな……。で、誰の家に集まる? できれば俺の家は、さけたい。親がいるから三人が集まると、「まだ夏休みの宿題、終わってないの? 早くやりなさい!」って言われるのがオチだからな……』

『えーと、僕の家にも、お父さんとお母さんがいるよ~』

『それじゃあ、私の家しかないか。今、仕事でお母さんがいないから』

『よし、決まり! 春花はるかの家に集合!』


 三十分後、宗一郎と翔真は、私のアパートにやってきた。私は二人を私の部屋に入れて、取りあえず聞いた。

「二人とも、オレンジジュースでいい?」


 翔真と宗一郎は、すぐに答えた。

「うん。僕、オレンジジュース、大好だいすき~」

「あ、ああ。俺もそれでいい……」


 私は台所だいどころに行き、冷蔵庫れいぞうこからオレンジジュースのペットボトルを出した。そして三つのコップにそそいで、おぼんせて自分の部屋に戻った。翔真はいつも通りだったが、宗一郎は緊張きんちょうした表情だった。不思議ふしぎに思った私は、聞いてみた。

「どうしたの、宗一郎?」


 すると宗一郎は、緊張した表情のまま答えた。

「俺、今、気づいちゃったんだけど……。俺、女の子の部屋に入るの、これが初めてだ……」


 翔真も、続いた。

「あ。そういえば、僕も初めて~」


 その時、私も気づいた。自分の部屋に男の子が入るのは、これが初めてだと。だが、そんなことで動揺どうようしている場合ではない。私と宗一郎は自由研究という、夏休みの宿題のラスボスをたおさなくてはいけないのだ。私は正方形せいほうけいのテーブルにオレンジジュースが入ったコップを三ついて、二人をすわらせた。そして、切り出した。

「私、ずっと自由研究のテーマを考えていたんだけど全然、良いアイディアが出ないの……」

「俺も……」と宗一郎は、気落きおちしていた。


 私は、翔真に聞いてみた。

「ねえ、翔真。何か良いアイディアはない?」 

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