第十四話

 立ち上がった私は、体の状態じょうたい確認かくにんしてから答えた。

「うん……。ケガはしていないけど、右のヒザがちょっと痛いかも……」


 宗一郎そいいちろうは、さらに聞いてきた。

「じゃあ、走るのは無理むりか?」

「うん。そうみたい……」

「そうか。じゃあ、ここからは歩いて行くか?」


 私は少し、『ほっ』とした。

「うん。そうしてくれると、助かる……。ねえ、宗一郎。歩くとあと、どのくらいで着くの?」

「うーん、そうだなあ……。あと、五分くらいかなあ」


 私は、決心した。どうしても、良い物を見たかった。

「うん。それじゃあ、あと五分、がんばる!」

「よし、その意気いきだ!」


 そして五分ほど歩くと、岩場いわばに着いた。けっこう、ゴツゴツしていた。岩場をケガをしないようにゆっくりと歩いていると、宗一郎は止まってゆびした。

「ほら、あれだよ」


 私には、わけが分からなかった。

「え? だから、何よ?!」


 宗一郎は、説明した。岩場に海水がたまっている。しおだまりっていうんだけど、そこに魚がいると。


 潮だまりを見てみると、三匹の魚がいた。私は聞いた。

「この魚、何ていう名前?」


 すると宗一郎は、細長くて銀色なのがキス。背中が赤いのがメゴチ。背中が黒いのがハゼと教えてくれた。


 翔真しょうまも、喜んで見ていた。

「うわー。可愛かわいい魚たちだねえ。まるで水族館すいぞくかんだねえ」


 宗一郎は、得意とくいげに答えた。そうだ、ここは岩場の水族館だ。俺も去年きょねん鮫島さめじまさんに教えてもらったと。


 私は、好奇心こうきしんが出てきた。なので、もっと魚がいないかと岩場をさがし始めた。私は、水族館に行ったことはある。でも、この岩場の水族館は素敵すてきだ。かべ屋根やねもない、開放的かいほうてきな水族館だ。青い空と海と岩だけの、水族館だ。


 ここにいるかな? それとも、こっちかな? と私は潮だまりに他の種類の魚がいないか夢中むちゅうで探した。


 すると鮫島さんがやってきて、大声を出した。

「おーい! これからスイカわりをするぞー! 早くこいよー!」


 スイカわり!


 私は宗一郎と翔真と一緒に、岩場をはなれた。私の好奇心は、スイカに負けた。


 そして砂浜すなはまで、みんなでスイカわりをした。翔真はスイカを食べる時も萌乃もえの先生と一緒いっしょで、有頂天うちょうてんだった。


 それからまた海で遊ぶことになったが、先生たちは砂浜で休んでいた。大人は疲れやすいなあと横目よこめで見ながら、小学生、中学生、高校生たちは夕方の花火が始まるまで、元気に遊んだ。


 花火というと、夜になってからやるのが定番ていばんだ。でもそうすると家に帰る時間がおそくなるので、夕方に花火をやった。夕日と私が持っている手持てもち花火の火がかさなった時は、夕方にやる花火も悪くないと、私に思わせた。


 するととなりにいた萌乃先生は、つぶやいた。

「やっぱり、大海って素敵……」

「え?」と私が不思議そうに見ると、萌乃先生は答えた。

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