第十三話

 私はおろかな夏休みの敗者はいしゃに、声をかけてあげた。

「ふっ。まさか二人とも遅刻ちこくするとは、愚かな……。大方おおかた夏休みだからって遊びほうけて、夜更よふかしして遅刻しちゃったんでしょ?」


 二人は反省しながら答えた。

「うん。僕、夏休みに入ってから、小型のゲーム機にハマっちゃったんだよ~。ついつい夜遅よるおそくまで、遊んでるんだよ~。いや宿題も、ちゃんと進んでるんだけど……」

「お前もか、俺もだ。俺はスマホのゲームにハマってるんだ。実は宿題も、あんまりやってないんだ……」


 私という夏休みの暫定勝者ざんていしょうしゃは、勝ちほこった。

「まあ私も夏休みに入ってから図書館で読みたかった本を読んでるんだけど、夜更かしなんかしないわよ! おーほっほっほっ!」


 すると草間くさま先生は、心配そうな表情になって言った。五人も遅刻するとは、ちょっと生活のリズムが乱れているんでしょうか。少し心配だけど、今日は臨海教室りんかいきょうしつです。思い切り遊んで、明日から生活のリズムをととのえてしいと。


 それから私たちは、マイクロバスに乗り込んだ。大海たいかいの生徒、全員が参加していた。私たちを乗せたマイクロバスは、西に向かった。三十分もすると日本海にほんかいに出た。


 早速さっそく私たち女子は、海の家で水着みずぎに着替えた。もちろん、萌乃もえの先生も。私たちが海に出るとすぐに、海水パンツ姿の男子たちがってきた。目当めあてはもちろん、萌乃先生だ。ピンクのワンピースの水着姿は女の子の私にまで、まぶしい、これが十九歳か、大人おとなかと思わせた。


 萌乃先生は中学生や高校生の男子から、海水かいすいをパシャパシャかけられていた。「やったなー!」と萌乃先生も、海水をかけ返していた。やっぱり萌乃先生は人気があるなあと思っていると、宗一郎そういちろうに海水をかけられた。私は、海水をかけ返した。

「夏休みの敗者のあんたが、暫定勝者の私にからんでくるとはいい度胸どきょうね!」


 ふと見ると何とか萌乃先生に近づいて遊びたい翔真しょうまは、中学生や高校生の男子たちがいるので苦戦くせんしていた。少し、ざまあみろと思っていると何と、六年生の鮫島さめじまさんが海水をかけてきた。皆、海を楽しんでいるなあと思った私は、私もかれていつもなら絶対にしないであろう、上級生男子に海水をかけ返すということをした。


 昼食は、持ってきたお弁当を食べた。砂浜すなはまにパラソルを立てて、私たち五年生の三人と萌乃先生と常治じょうじ先生とで。萌乃先生と昼食を食べることができた翔真は、もちろん喜んだ。昼食を食べ終わると、宗一郎は得意とくいそうに言った。

「おい! お前たちに、良い物を見せてやる!」


 私はとても興味きょうみがわいたので、聞いてみた。

「良い物?」


 翔真も不思議そうな表情で、首をかしげた。

「え? 何それ?」


 宗一郎は、笑って言った。

「いいから、ついてこい!」


 私と宗一郎と翔真は、サンダルをいた。すると萌乃先生から、声をかけられた。

「皆、気を付けて行ってくるのよー!」


 そして急に走り出した宗一郎に、私と翔真はついて行った。良い物って何だろう?

 夏の日差ひざしは強く、暑かった。走っていると、汗が出てきた。それでも私は良い物を見たくて、がんばって走った。ワクワクしていた。夢中で走っていたので、私は砂に足を取られてころんでしまった。うつぶせにたおれたので、口に中に砂が入った。気持ち悪いので『ぺっぺっ』と砂をき出していると、先に走っていた宗一郎と翔真が戻ってきて優しく声をかけてきた。

「おい、大丈夫か?」

春花はるかちゃん、大丈夫?~」


 私は、何とか答えた。

「うん。大丈夫みたい……」


 それでも宗一郎が心配そうに、聞いてきた。

「おい、ケガとかしてないか?」

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