第三話

 それから社会から始まった授業は四科目、続いた。昼休みをはさんで午後は、リスのように可愛かわい萌乃もえの先生が二科目、授業をしてくれた。


 何とか無事に一日目が終わったと一息ひといきついていると、ふと、少し太った子と話している宗一郎そういちろうがいた。


 私はもう帰ろうとした時、宗一郎から誘われた。

「これからお前の、歓迎会かんげいかいをやる。だから、付き合え」


 私は、ちょっと面倒めんどうくさいなあと思ったが宗一郎の言葉には、ことわれない迫力はくりょくがあった。だから私は仕方しかたなく、宗一郎と翔真しょうまの後をついて行った。着いた先は、市内のカラオケボックスだった。


 部屋の中に入ると、宗一郎は宣言せんげんした。

「取りあえず、俺と翔真が歌う。次はお前に歌ってもらうから、何を歌うか考えておけ。一応、お前の歓迎会だからな」


 宗一郎はそう言って翔真と、修二と彰の『青春アミーゴ』を歌った。知らない歌だったので、スマホでググってみた。知らなくて当然だった。昔に放送されたドラマの、主題歌だったからだ。


 歌い終わった宗一郎に、「じゃあ次、お前」とマイクを渡された私は、彩音の『いつもこの場所で』を歌った。この歌も古いが、まあ、おたがさまだと思った。


 歌い終わりソファーに座った私に、宗一郎が真剣な表情で話し出した。宗一郎が大海たいかいに通っている理由は、パニック障害しょうがいだから。普通の学校のめ切った教室にいると、『この場所から出られない』って思って死にそうなぐらい苦しくなる。だから通っていた小学校をやめて、大海にきた。大海の教室は広いから、パニックにはならならないから、と。


「う、うん」と私がうなづくと、宗一郎は翔真を指差ゆびさして続けた。翔真は、発達障害はったつしょうがいだ。算数はできすぎるぐらいできるけど、他の教科が全然ダメなんだ。だから大海にきたんだ、と。


 私がまたもや、「う、うん」とうなづくと、宗一郎は得意とくいそうに続けた。でも翔真は、すごいやつだ。萌乃先生のすすめで文部科学省から認定されている、数学検定すうがくけんていっていうのを受けてみた。そしたら準二級じゅんにきゅうに合格して、数学のレベルは高校生なみだった。まだ小学五年生なのに、すごいだろ、と。


「へえー」と私が感心していると、翔真が話し出した。

「え? 僕の夢を聞きたい? しょうがないなあ~、それじゃあ教えてあげるよ!」

「え? 私、そんなこと一言ひとことも言ってないんだけど……」という私の戸惑とまどいを無視して、翔真は語った。

「僕の夢はねえ~、数学の力で地球の温暖化おんだんかを止めることなんだ! どう? すごいでしょう~」


 私は、さらに戸惑った。

「え? 数学って、算数の難しいやつだよね? 計算するやつだよね? そんなんで地球の温暖化を、止められるの?」

「うん。春花ちゃん、四色定理よんしょくていりって知ってる?」


 私は、素直に答えた。

「ううん。全然、知らない」

「あのね、どんなに複雑な地図でも、四色あれば塗分ぬりわけられるっていうことなんだよ~」


 私はちょっと考えて、納得なっとくした。

「へえー」


 すると翔真は、得意とくいげになった。

「でね、このことを見つけたのは、数学の力なんだよ。すごいでしょう、数学って!」

「ま、まあ、確かにすごいと思うけど……」

「だからね、僕は大きくなったら数学の力で、地球の温暖化を止める方法を考えるんだ! どう? すごいでしょう~」


「ま、まあね……」と私が答えていると、宗一郎が聞いてきた。

「今度はお前の番だ。お前はどうして、大海にやってきた? 教えてもらおうか」

「え? そ、それは……」と私が言いよどんでいると、宗一郎が顔を近づけてせまった。

「俺と翔真は、自分の秘密を話した。だからお前も、自分の秘密を話せ。じゃなきゃ俺たちは、本当の仲間になれない」

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