第二話

 フリースクールとは主に、学校に行かなくなった不登校ふとうこう小中高生しょうちゅうこうせいが学校以外に学んだり友達と過ごしたりできる居場所である。おおやけの組織ではなく、個人や会社、NPO法人によって運営される。


 また、通っていた学校の校長の判断で、フリースクール等の民間施設に通った期間を、出席扱しゅっせきあつかいすることができるようになった。


 お母さんも頭を下げて、お願いした。

「お願いします、草間くさま先生。この子もう、通っていた小学校には行きたくないって言って、きかなくて……。もう、ここしか頼るところが無いんです。お願いします……」


 キリンのように背が高い草間先生は、微笑びしょうを浮かべて答えた。ご安心ください、お母さん。我々は、全力をくす、と。



 微笑を浮かべたまま草間先生は、私の方を向いて聞いてきた。

春花はるかさん。私から一つ、お願いがあります。聞いてくれるかな?」

「お願い?」


 草間先生の表情は、真剣だった。

「はい。私はこのフリースクール・大海たいかいの代表として、みんながきてくれるフリースクールにしたいと考えています」


 私も真剣に、答えた。

「はい」

「そこで、お願いがあります。ここにきたくない時は、こなくてもいいです。でもその理由を、正直に教えてしいんです」


『ここにきたくない時は、こなくてもいい』と言われて、私は少し戸惑とまどった。でも、聞いた。

「理由、ですか?」

 草間先生は、説明した。『勉強が分からない』、『イヤな人がいる』でもかまわない。そうしたら先生たちは勉強が分かるように工夫くふうしたり、イヤな人との距離の取り方を教える。だから、ここにきたくない理由を正直に教えて欲しい、と。


 それを聞いてちょっと安心した私は、答えた。

「はい」


 草間先生は真剣な表情のまま、続けた。学校に行かなくなった私は、の中のかわずになっているかも知れない。視野しやがせまくなっているかも、知れない。世界は広い。色々な考え方、色々な人がいる。それが当たり前だ。それらとれ合って私に、色々な考え方を身につけてもらいたい、と。


 私はなるほど、と思い、草間先生の目を真っすぐに見つめて答えた。

「はい、分かりました」


 私は後で、草間先生に聞いてみた。なぜ、学校に行かなくなった理由を聞かなかったのかと。初めは草間先生も、理由を聞いたそうだ。でもほとんどが学校でイヤなことがあったという理由で、話す生徒もつらそうだったそうだ。


 だったらもう理由なんてどうでもいい、とにかく学校に行きたくないのなら、大海にきてみてはどうか? と考えるようになったからだと教えてくれた。

 更に、なぜ大海という名前にしたのかも聞いた。それはやはり、『井の中の蛙、大海を知らず』ということわざから、付けたと教えてくれた。


   ●


 私がそこまで思い出した時に丸いテーブルに、背が低めの男性がきた。そして、あいさつをした。

「えー、私は佐原常治さはらじょうじと言います。主に君たち五年生の、午前の授業をします。午後は深野萌乃ふかのもえのという、大学一年生の先生がアルバイトですけど、授業をしてくれます。

 私と萌乃先生のどちらも、よろしくお願いします」


 私も、あいさつを返した。

中條なかじょう春花です。よろしくお願いします」


 すると佐原先生は、二人を見た。

「はい。それじゃあ、この子たちの紹介をしようと思います……」と佐原先生が話している途中で、宗一郎そういちろうが口をはさんだ。

「先生。俺たちの自己紹介なら、もう終わりました」

「ああ、そうですか。それじゃあ早速さっそく、今日の授業を始めましょう。社会から始めます。みんな、社会の教科書を出してください」

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