第26話 悪堕ちアマゾネス

 カエルのように各所を跳躍をしながら、アマゾネスが矢を放ってくる。

 カチュアも迎え撃つが、アマゾネスを捉えることができない。


「野郎!」


 フェターレ王子の側近が、拳銃を構えた。


「撃つな! これは私とアマゾネスとの決闘だ! ここは任せてもらう!」


 カチュアが側近に向けて、叫ぶ。

 側近は王子にも説得されて、渋々銃を収めた。 


 東の森を守護する同盟関係を、築いたはずなのに。アマゾネスは男爵に身も心も売ってしまったか。


 ならば、彼女を救えるのはカチュアのみ。


「アマゾネスよ。姉妹の契約をかわしたこと、忘れたか? 私とお前は、無二の親友のはずだ」


「そんなこと、忘れたよ」


 アマゾネスの瞳は、すっかり曇っていた。カチュアすら、敵としか見ていない。


 おそらく、アマゾネスは始めから狙われていたのだろう。親友である、カチュアが攻撃できないように。


 アマゾネスの弓を、カチュアは剣で打ち払う。


「お前も、男爵に魔力をもらうがいい。無限の力が手に入るぞ」


「力に満足しているなら、もう別の力を欲しようとはしない。より求めるのは、現状を恐れているからだ」


「黙れ! 一箇所にとどまりくすぶっている天使の飼い犬が!」


「魔王の飼い犬に言われる筋合いはない!」


 どうにか、アマゾネスを目覚めさせる方法は……。


 たしか、魔導書の天使は、浄化の秘術があると。


「天使よ。もしこのアマゾネスを哀れに思うなら、我が声に耳を傾けてくれ! ぐほお!」


 アマゾネスの蹴りを腹に受けて、カチュアは天使像に押し付けられる。


 再び、側近がホルスターに手を。


 しかし、不思議なことが起きた。


 蹴りの勢いが強すぎたのか、像の天使からヤリがこぼれ落ちたのである。


「なんだ、天使が私に力を貸してくれるのか?」


 翼の生えた白いヤリが、カチュアの手元に。カチュアの手のギリギリで静止し、浮遊している。質量はない。魔力が塊となって、ヤリの形を取っているようだ。




「この俺様が、筋肉に頼り過ぎだと?」


「はい。あなたは自分の怪力を過信しすぎています。筋肉とは、自身の魂と共生関係にあるもの。精神がそれを無視しして酷使すれば、壊れるのも道理。バランスこそ、大切なのです」


 筋肉とは、信仰ではある。だが、男爵のそれは単なる依存だ。魔王の力を、自分の力と勘違いしている。強すぎる力を持った者たち、誰もが通る道だ。


 わたしが挑発すると、スカルスカー男爵が大笑いした。


「フン! 適度にこなして、なにが世界制覇だ! そんな消極的な侵略で、世界と渡り合えると思わんな!」


 男爵が、拳を繰り出す。


 パンチをすり抜け、わたしは男爵の脇腹にケリを入れた。


「ぎいいいい!?」


 どれだけ打撃を与えても通らなかったダメージが、クリーンヒットする。


「なぜだ!? 俺様に物理攻撃は効かないはず!」


「それは、強靭なウロコに吸収してもらっていたからです。そんな腰抜けが装備するような体皮で身体を覆っているから、肉体が弱まるのです。ふん!」


 さらに、わたしは背中に掌を打ち込む。


「あがああああ!」


 男爵が、悶絶した。


「そのウロコが剥がされた今、あなたはもはや急所まみれになっています。フンフンフン!」


 ウロコが剥がされている部分に、重点的に攻撃を加える。


「痛でえええええええ!」


 涙さえ流し、男爵はうろたえた。

 鞭打で腹のウロコを剥がし、さらに拳を浴びせる。

 男爵の身体が、くの字に曲がった。


「トドメを……む?」


 わたしは必殺の膝蹴りを浴びせようとしたところで、足を止める。


「ようやく、本性を現しましたね?」


「フン。やはり人間の身体は、柔くてかなわんな」


 男爵の表情が、一変した。魔王が、姿を現したのである。


「辺境の弱小蛮族にちょいと力を与えただけだ。それが、このイキりっぷりとは。まったく、虎の威を借るなんとやら。実にしょうもない。さて、お嬢さん。ここからが本番だ」


 わたしは、魔王が指してきた指を折ってやった。

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