第25話 鞭打《ベンダ》
スカルスカーの本気を見せてもらっても、こちらは特に驚かない。
みるみる、スカルスカー男爵の表情に、苛立ちが見えてきた。
「おのれ許さん。ここまで愚弄されるとは! あとで泣いて詫びても許さぬ!」
「許されないのは、あなたの行動です。堂々と城攻めをして策を練ったようですが、すべてがムダでしたね」
わたしはロッドを、男爵の腹に叩き込む。
「む?」
「フハハァ! この俺様に物理的な攻撃は一切効かん!」
「なら、これで」
わたしはみぞおちの辺りに、ロッドの先を打ち込んだ。いわゆる寸勁である。
しかし、男爵は寸勁の衝撃さえ、霧散してしまう。
「寸勁とは考えたな! しかし、俺様の装甲はそんな攻撃さえ弾き返す! 死ねえ!」
男爵が、丸太のような腕でパンチを繰り出す。
紙一重で、わたしは拳をよけた。
わたしがいた場所に、穴が開く。
『フォトンよ。どうやらヤツの特殊な表皮によって、攻撃はすべて受け流されるようじゃの』
レメゲトンが、トカゲ男爵の戦闘力を分析した。
「そのようです。戦法を変えましょう」
男爵の攻撃を交わし続け、攻め方を考える。
「たしか、スライムのような身体にすら有効な戦い方が合ったはず」
『ならば、ええ方法がある。使ってみよ』
「ああ。そういえば、ありましたね」
書物『レメゲトン』を辿っていき、答えにたどり着いた。
「なにをしてもムダだ! どのようなモノノフかと思えば、逃げているばかりだとは。とんだエセ冒険者よ!」
「では、次からはあなたが逃げる番です」
わたしは、身体をグルン、と、波打たせる。全身が、水のようにドロドロになるイメージで。
「なあ……ふぐあ!」
わたしは、手をムチのようにしならせた。男爵の肩甲骨辺りに、手のひらをしたたかに打ち込む。
男らしくない悲鳴をあげて、男爵が後ろへ下がった。
わたしの手には、大量のウロコが。男爵の背中から、引き剥がしたのである。
「な、なにが起きた!?」
「これが『鞭打』。スライムを倒すために作られた、勇者の秘術です」
人間の七割は、水分だという。その水分を、凶器へと変えたのだ。
物理攻撃が通じないスライムと戦うため、勇者は「自分がスライムになればいい」と考えに至ったのである。
脇腹に、鞭打を打ち込んだ。
「のおおおお!」
鞭打は、男爵が防いだ反対側の脇にへばりつく。鞭打は手をムチ状にして攻撃するため、打撃ポイントの予想がつかない。そのため、こんな攻撃ができる。
防御した腕のウロコも、剥がした。
「さっきまでの勢いはどうしました?」
「き、貴様」
「あなたは、筋肉に頼り過ぎなのです。そのせいで、筋肉以外の部分を攻め込まれると弱い。あなたは、オシリも弱そうな顔をしていますね?」
「な!?」
「予言します。男爵に取り憑いた魔王よ。あなたは、オシリを天使に貫かれて消滅します」
天使像は、武器としてヤリを構えていた。
*
カチュアは魔導書を保護するために、聖堂へ向かう。
「おお、フェターレ王子!」
ダメリーニの第一王子フェターレ殿下が、聖堂の付近でこちらの騎士と合流していた。
「ご無沙汰しております。本日はなんのおもてなしもできず」
「いえ。あなた方が危機だと聞いたので、加勢に来ました」
「加勢ですか。たしか、あなた方とネロックは、同盟関係にあると」
「父ダメリーニ王が、関係を解消しました。ネロックは、手を広げすぎた。ネロック王を差し置いて、本格的に闇の者と手を組んだようなのです」
聞けば、辺境伯マッスリアーニの刺客が、極秘でネロックを調査していたという。
「隣国ゆえに、穏便に済ませようと思ったのですが。残念なことで」
「……っ! 伏せて、フェターレ殿下!」
フェターレ王子の方へ飛んできた矢を、カチュアはロングソードで弾き飛ばした。
とめどなく、矢が飛んでくる。
この矢は……。
最後は、敵自身が破城槌のごと聖堂めがけて頭から飛び出してきた。
ヒザ蹴りでカウンターを決めると、相手は上腕で受け止める。そのまま跳躍し、後へ下がる。
「まさか。お前は……」
そこには、変わり果てた姿のアマゾネスが。
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