第24話 女騎士 対 トカゲ男爵

 トカゲの騎士は、フンと鼻息を鳴らす。


「つまらぬ! この装甲を貫けるものはおらぬのか? こんな紙切れのような騎士ばかりでは、暇つぶしにさえならん!」


「なら、私が相手になろう!」


 カチュアが、剣を抜いた。


「ほう。女武道か! よろしい。ちょうど近隣のアマゾネスを馳走になったところだ! お前は、どのような声で、鳴いてくれるのか!」


 スカルスカー男爵が、肩を回す。


「下劣な!」


「威勢がいいのも、そこまでだ。そのうち、自らの口でこの俺様のヤリを磨くようになるぞ!」


 男爵は、ヤリなど携行していない。つまりは、下ネタということ。


「天使から受け継いだ秘術をもって、お前を葬り去ってくれる! 覚悟!」


 カチュアが、身体強化の魔法を全身に施した。あれが、天使の秘術か。 

 剣だけではなく、拳や蹴りなどもコンビネーションに組み込む。


「これは!」


 男爵は硬い装甲で受け止めていたが、すぐに回避行動に移行した。


「さすが、天使の秘術よ! 少しは、歯ごたえがあるようだな?」


 余裕がない感じだが、スキをうかがっているようにも。


 男爵の振り回す剛腕を、カチュアはスイスイとかわす。パワーはスカルスカーだろうが、スピードはカチュアの方が上か。


「とどめ!」


 カチュアの剣が、正確無比に、トカゲ男爵の首にヒットした。


「しかし、まだ未熟!」


 剣が、男爵の分厚い甲殻に耐えられず、折れる。


「な!?」


「粉砕!」


 腕力で強引に、ラリアットをカチュアにぶつけた。


 胴体がくの字に曲がって、カチュアが吹っ飛んだ。


 なんという力業か。

 シックスパックの肉体をも弾き返せない、腕力とは。


 わたしは、カチュアを抱きとめる。すぐに治癒魔法を施した。


「魔王の力によって、その程度の攻撃など効かぬ!」


 男爵の腕が、メリメリと音を立てて脈動した。わずかに、男爵の顔が歪む。

 魔王の力を用いた反動か、痛みが走るらしい。


「あなたは騎士たちを連れて、聖堂へ向かってください」


 カチュアが戦っている間に、負傷した騎士団たちも治癒し、事情を伝えて出払ってもらった。


「アレは、わたし一人で十分」


「正気か、フォトン!?」


「本命は別にある、と言っているのです」


 これは、国同士の戦争なのである。男爵単騎で、わざわざ目立つように襲ってきたのは、どう考えてもおかしい。もっと大部隊がいてもいいはず。


「奴らの狙いは、我々をこちらにひきつけて、別働隊に聖堂の魔導書を取らせることだと?」


「そのとおりです」


「わかった。だが、一人でこの男と戦う気か!?」


「ええ。一人のほうが好都合」


 その方が、蹂躙を楽しめるというもの。


「それに、あなたも危ないのでは?」


「……くっ」


 カチュアが、わずかに咳き込んだ。口から、血が滴っている。


 やはり、秘術を使いすぎると身体に負担がかかってしまうようだ。


 わたしは治療してもらっただけで、魔王の力はほとんど使っていない。だから、健康でいられるのだろう。


「トカゲ男爵も、無事ではないでしょう。ここはわたしに、おまかせを」


 聖堂の場所を、わたしは知らない。ここは、わたしが足止め役に回った方がいいだろう。


「頼む! 私の敵を取ってくれ」


「ええ。アレの首をお持ちしましょう」


 わたしは、聖堂へ向かうカチュアを見送った。


「首をいただくだと? 魔王の力を得た俺様の首を? 威勢がいいのは結構だ。しかし、あまりにも未熟がすぎる」


 男爵は、勝った気でいる。


「あなたが今どのような状態か、ひと目でわかります。手負いでわたしに挑むなど、無知も甚だしい」


 わたしが挑発すると、男爵のこめかみに青筋が立つ。


「上等だ冒険者! 俺様にイキリ散らかしたこと、後悔するがいい!」


 トカゲ男爵が、さらに巨大化した。


『フォトンよ。あれで、スカルスカーとやらは本気を出しとるらしいぞ』


 魔王レメゲトンが、肩をすくめる。


「ええ。見せかけの筋肉で、たいしたことはありません」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る