第23話 聖堂騎士団《テンプラー》

「レーやん。たしかスカルスカーとは」


『うむ。元蛮族王じゃったのう』


 今はネロックのゼム将軍に仕え、爵位を得たとか。 


『向こうからあいさつに来てくれるとは、僥倖じゃな、フォトンよ』


 魔王レメゲトンが、ほくそ笑む。


「スカルスカー氏は、ロプロイのヘリントン大聖堂が所有する魔導書・『天使の書』を渡せと」


「理由は?」


 女王の顔には、明らかに憤慨の色が見える。誰に断って魔導書をよこせと言ってきたのかという風な。


「ネロックにて厳重に保管すると」


「悪用するのが目に見えていて、そんな理屈が通ると思うてか。返り討ちにしなさい」


 しかし、騎士団員は首を振った。


「大群をもって取り押さえに当たったのですが、男爵単騎に圧倒され」


「情けない!」


 まるで女王自ら飛び出さん勢いだ。


『ほほう。天使の書とな』


「知っているのですか?」


『勇者に味方をした天使のことが、記された書である。といっても、「今度は愚かな人間に代わって、わたしが世界を管理するのだー」とイキリ散らかして勇者に討伐されたのじゃがな』


 その後は魔導書に封じられて、天使の奥義は、騎士団に継承されている。天使の神通力は、今もこの地で脈々と引き継がれているという。


『我々で対処したほうが、よさそうじゃな?』


「わたしはゼム将軍の配下を削れる。あなたはライバルの魔導書を破壊できる。ウィンウィンですね」


『ようわかっておるな、フォトン。そのスカルスカーとやらも、魔導書で魔王の力を得たに違いないわい』


 レメゲトンのような魔王たちは、魔導書を破壊することで相手の力が手に入る。レメゲトンも、力を取り戻しつつあるようだ。 


「ネロックは魔導書を集め、そこに眠る魔王を呼び覚まし、世界を牛耳るつもりです。なんとしても、阻止せねば」


「わたしに任せていただけませんか?」


 いらだつ女王に、わたしは意見した。


「あなたに?」


「考えが変わりました。こちらに、ゼム将軍の配下が侵攻中とか」


 旅先でたまたま、男爵の侵攻を止めた。そんな理屈でいい。国同士が関われば、戦争になろう。が、わたしだけが戦えば、わたし一人に責任を被せることができる。


「あなた一人だけに、男爵を打倒させるわけには参りません。これはロプロイとネロックの」


「こちらとしては、ゼム将軍のコマは一つでも潰しておきたいのです」


 わたしなら、個人的な事情しか抱えていない、自由の身だ。指名手配だろうが、喜んで受けて立とうではないか。


「私とて、あなたの実力を知らないわけではありません。聖霊を、またこの私自身の目を通して、あなたしか男爵を止められないとわかっています。それでも、それでも」


「母よ、メンツを保ちたいお気持はわかります。しかし、ここはフォトンに任せるべきでは? 彼女の強さは、私が保証します」

 

 カチュアも、わたしのことを後押ししてくれた。


 女王は言葉を続けようとしたが、今の絶対的に不利な状況に、首を振らざるを得ない様子だ。


「……わかりました、フォトン。立会人として、このカチュアも連れていきなさい。娘は聖堂騎士団テンプラー。あなたの手をわずらわせることはないでしょう」


 神に仕える騎士を、テンプラーと呼ぶ。戦闘力は並の冒険者を超えて、浄化魔法・治癒は自分でも可能だ。


 どおりで、鍛え抜かれていると思った。聖騎士とは。


 カメレオンやカメの魔物に遅れを取っていたが、放っておいても彼女一人で倒せたかもしれない。余計なことをしてしまったか。


『テンプラーなら、ゼムめのネクロマンシーにも抵抗できよう』


「そうですね。わたしもネクロマンシーに対抗するため、聖職を選びましたから」


 ダークプリーストとはいえ、自分はレメゲトンに仕えている。死神に魅了されたりなどはしないはず。


 城を出て、戦場へ向かう。


 現場では、人がバンバンと放り投げられていた。


 騎士団を投げ飛ばしているのは、三メートルほどに大きなトカゲのモンスターである。


「真ん中にいるトカゲ頭が、件のスカルスカーのようですね」

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