第22話 マッチョ母娘
「我が娘カチュアよ。よくぞ戻りましたね」
女王が、娘であるカチュアの労をねぎらう。
肩が見えるドレスを着ているからか、女王の筋肉がゴツゴツしている。娘と比べても遜色がない。
一方、父王様の方は、気の毒なほどに痩せている。
「魔物討伐、大義でした」
「いえ。カメレオンごときに不覚を取り、こちらの冒険者フォトンに助けてもらった次第です。あのままでしたら、私のシックスパックが撫でられ続けていたところでしょう」
苗床にされるという想像は、なさらないと。まあ、ウブそうだし、性の知識が乏しいのかも。
「運も筋肉のウチですよ、カチュア。日頃から鍛えているから、運を引き寄せることができるのです」
女王の言葉は謎理論だが、妙な説得力がある。
運も筋肉の一つとか、パワーワードすぎるだろ。
「フォトンと言いましたね? 娘カチュアを助け出してくれたこと、感謝いたします。報酬の路銀と、装備を持ち帰りください」
豪華なトレーに、金銭と豪華な装備品が乗っていた。
装備は正直、間に合っている。とはいえこれは、受け取らないと逆に失礼なやつだ。
精霊レーやんこと、魔王レメゲトンとともに、装備の目利きをする。
「ガントレットが、二つになりました」
この宝玉付き手甲は、いいな。肩までカバーしてくれるだけじゃない。宝石に浄化の魔法がこめられていて、手をかざすと一瞬で周りのアンデッドが消滅する仕組みだ。
軽く、シャドーをしてみる。関節を覆う繊維部分が網目状になっているため、動きやすい。
『魔法の法衣も、装飾が鮮やかなだけではないぞよ。軽さもアップしておる』
「この腰巻きの部分、今使っているものと合成できますか?」
プルトンにいた鍛冶屋の娘リカの装飾を、活かしておきたい。
『できるぞ。新調した腰巻きに、リカの装飾をほどこせよう』
なら試す。ロッドに込められた宝玉の魔力を、二つの腰巻きに注いだ。
「おお。立派になりました」
装飾に、魔法効果も付与されている。
「さすが王国装備ですね」
ロッドも新調し、より戦闘力が増した。
『報酬装備など、金か換金アイテムと相場が決まっておる。が、この女王はわきまえておるな』
レーやんのいうとおりだ。我々が今必要としている装備を、女王は理解している。
「おそらく、聞こえていますよ。ここは精霊国家だと話していましたから」
『うむ。無益は発言は控えようかの』
咳払いをして、レーやんは黙り込む。
「ありがたき幸せ。ただわたしとしましては、馬を一頭お貸しいただければ十分だったのですが」
「ゼム将軍のもとへ行くと、おっしゃっていましたね?」
「はい」
「あなたはたしか、ここから南東にあるエアロサ国から来たのでしたね。たしかにあそこを抑え込まれては、親交のある南の国家との繋がりを絶たれてしまいます」
わが故郷へ侵攻を、ゼム将軍はあきらめない。撃退しておきたかった。
「ゼム将軍の目的は、おそらく魔導書でしょう。エアロサでしたら、辺境伯が持ち帰ったという最強の魔導書、レメゲトンかと」
魔王レメゲトンが、目当てだったのか。
「あなたがそこまで、重要人物だったとは知りませんでした。てっきり、おとぎばなしの世界の住人かと」
『えっへん。もっと称えてよいぞ』
わたしの顔の隣で、ちんちくりんの魔王が胸を反らす。平たい胸を。
「この世界の国々は、かつて勇者が倒した魔王を封じた魔導書が存在します。王国自らか、神殿が厳重に管理しています」
おそらくゼム将軍は、すべての魔導書を集めて中に封じられた魔王を解き放つつもりなのだ。
「急ぎますので、これにて」
「待ちなさい、フォトン」
わたしが立ち去ろうとすると、女王に呼び止められる。
「我々にとっても、将軍は敵です。協力しましょう」
「しかし」
さすがに長居しすぎていると考えていた矢先、若い男性の騎士が報告に来た。
スカルスカー男爵と名乗る勢力が、ロプロイに向けて侵攻中だと。
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