第21話 精霊国家 ロプロイ

「着いたぞ、フォトン。ここが、ロプロイ帝国だ。通称、【精霊国家】とも言う」


 女性が統治する国家だからか、シルエットがどことなく丸い。それに華やかだ。あちこちに通路や庭に花が咲き、壁の色も鮮やかである。花の周りでは、ホタルのような光がポワポワ浮かんでいた。あれが精霊だろう。


「所々に、宝石が使われていますね?」


「宝石?」と、カチュアは壁を撫でる。 


「磨いた石を、建物に用いているだけだ。それゆえに、建造物が宝石のようにキラキラしているのだ」


「そうなんですね?」


 橋や塔、柱の一本に至るまで、琥珀を思わせる輝きを放つ。

 ロプロイは清潔な都市だと聞いていたが、聞くのと実物を見るとでは大違いである。あまりの美しさに、圧倒された。


「几帳面なんですね」


「そうでもない。石材を磨くのは、筋肉を鍛えるためだ」


 建築業が、筋トレだったとは。


「我々は、エルフの血を引き継いでいる」


「エルフなのに、筋肉を敬愛しているのですか?」


 たいていのエルフには、ムキムキのイメージなんてない。ほっそりとしていて、肉食を嫌い、魔法をたしなむものだと。


「ロプロイの先祖は、シティエルフだ」


 街に出て筋肉の素晴らしさに目覚めたエルフが、建国したらしい」


「さすがに地元では受け入れられず、孤立した。それでも反骨精神があってか、ここまでの大国にまで成長した。外の文化を取り入れるのは、ある意味で大事なのかもな」


 なんといっても、城の造形が美しい。柱が細く心もとないが、素材が堅牢であることはひと目で見て取れる。こんな技術、世界に二つとない。


「契約精霊に、守ってもらっているのだ」


 魔素が豊富な土地なので、契約精霊と持ちつ持たれつの関係を保っているという。


「フォトン。用事がなければ、このまま女王の元まで向かうが?」


 わたしは、そこまで活躍したか? 女王にお目にかかれるほどの働きをしたとは。いきなり女王とお話をするとか、聞いていない。


「待ってください。いきなりお会いしてご迷惑では?」


「ロプロイの女王が、そんなことを気にすると思うか?」


 カチュアは平然と語った。


「では、お邪魔しましょう」


 その前に、ギルドへ報告に向かう。


 こちらの受付嬢は、プルトンと同じくエルフだった。長い耳を持ち、背が高い。だが、プルトンのウッドエルフと違い、こちらは筋肉がついている。


「素材の提供、ありがとうございます」


 ウッドエルフは、狩りなどの日常生活で身についた筋肉であった。シティエルフの受付嬢の肉体は、戦闘によって引き締まっているように感じる。


「鍛えているのですね?」


「有事の際は、受付であろうと駆り出されるので」


 用事を済ませ、城へ向かった。


 二匹の蝶が、わたしたちに近寄ってくる。蝶はわたしたちの周りを、クルクルと回り始めた。


『ヒソヒソ。なんか変わったコがいるわ』


『ヒソヒソ。変な魔力が流れていて、ワタシたちとは違うみたい』


 精霊たちがレーやんを見て、こっそり会話をしている。さっそく正体がバレたっぽい。


「長居すると、ヤバイのでは?」


『構わぬ。どうせ魔王だとは知られまい』


 レーやんこと魔王レメゲトンは、呑気に構えている。


『敵かしら?』


『違うでしょ。敵ならもっとあからさまに、魔力が汚れているもの』


『そうよね。カチュアが信頼を置いているくらいですもの』


『ではカチュア、女王様には適当に報告しておくわ』


 ヒラヒラと、蝶は王城のもとまで飛んでいった。


「今のは、何でしょう?」


「王城の契約精霊たちだ。城や周囲を巡回し、見張りをしてくれている。もっとも、興味本位でキミらに近づいただけだろう」


「珍獣のように、思われたでしょうね」


「かもしれん。では、女王に会いに行くから」


 城へ入り、すぐに王座の間へ。


「カチュア、ただいま魔物討伐任務より戻りました。お母様」


 ああ、よくある展開ですねー。

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