第19話 寸勁

 騎士団と離れて、わたしはカチュアと行動する。

 途中で魔物も現れたが、わたしとカチュアだけで対処できた。


「ポーションの原料があるこの付近を、魔物が荒らしていると聞いてな。調査に来たのだ」


「女性で騎士団長とか、大変ではないですか?」


 最近は女性も自立した生活を送っているとはいえ、まだまだ差別や区別が多い。


「なに。そのために鍛えているからな」


 カチュアが、インナー越しに腹を見せる。


「見事なシックスパックですね」


「ああ。しかし、魔物相手に不覚を取ってしまった」


 団員たちの負担を軽減しようと、先行しすぎてしまったらしい。


「もっと、魔物の強さを把握しておくべきだった。あれほどの規模だったとは」


「巡礼兵が、モンスターの討伐に出向くのですか?」


 いくら神に仕える騎士とはいえ、率先して魔物と戦うとは。


「他の部隊は、ちゃんと城に待機しているぞ」


「そうはいいますが」


「冒険者だけでは、対処しきれないほどの魔物が、我がロプロイ王国に押し寄せている。ポーションも聖なる奇跡の一つだ。我々が守るのが道理だろう」


 ずいぶんと、職務に忠実な人だ。


「冒険者に任せれば、よくないですか?」


『ロプロイの冒険者ギルドは、規模が小さい。騎士団がおるからのう』


「騎士団のポーション供給源を、狙った可能性は?」


『それもあるのう』


 わたしが魔王レメゲトンと脳内会議していると、カチュアが不思議そうな顔をした。


「さっきから何と話しているのだ」


 まずいな。これでは「イマジナリーフレンドを飼う、イタい街娘」と思われてしまう。


「レーやん、顔を出してください」


『うむ。むむむーん』


 魔王レメゲトンが、力を溜めた。ポン、と音がして、手のひらサイズの魔王が爆誕する。背中には、コウモリ羽が生えていた。


「おお、契約精霊がいるのか。それで格闘家なのに、魔法が使えるわけか」


 相手は魔王なのだが、精霊と誤認してくれたようである。


「は、はい。こちら、契約した精霊の【レーやん】です。主に、魔法の調節を担当してもらっています」


 話の流れで、適当にごまかす。


『お初にお目にかかるぞ。よろしく頼む』


「カチュアだ。契約精霊がいるとか、フォトンは、相当の手練とお見受けする」


「ま、まあそうですね」


 わたしは、頭をかく。


「もうすぐ王都ロプロイなのだが、コイツが邪魔だな」


 カメ型のモンスターが、道を塞ぐ。カメといっても、象くらいの大きさだ。


「あんな丸っこいカメまで、こんなに巨大化するのですね」


「この付近に現れた、魔王に汚染されてしまったらしい。てやあ!」


 大剣で、頭を狙う。


 だが、すぐにカメは頭を引っ込めてしまった。カチュアの剛剣を持ってしても、甲羅を貫けない。


「おまかせを」


 わたしは、カメの甲羅に手を添える。


「ふん!」


 バキ! と、カメの甲羅にヒビが入った。

 驚いて、カメが頭を出す。


「今です!」


 わたしが言った瞬間、カチュアの剣がカメのアゴから脳天を刺し貫く。


「フォトンは強いな」


 カチュアが、剣を収める。


「あなたも、お見事です」


「今の技、なんというのだ? モンクのスキルのようだが」


「【寸勁】です。魔物はさっきのカメのように、物理的な攻撃を受け付けない物もいるので」


 ゼロ距離で発動することによって、分厚い装備を突き抜ける攻撃を「寸勁」……通称・ワンインチパンチという。


「それなら、スカルスカー男爵の全身ヨロイも破壊できそうだ」


「スカルスカー男爵?」


「ロプロイに攻め込もうとしている、貴族の騎士だ。元々はバーバリアン集落のボスだったんだが、今はゼム将軍に従っている。今では男爵位を持つ貴族なんだ」


「強いので?」


「ああ。つい先日も、ロプロイと新興のあったアマゾネスの村が襲われた。若い女族長は抵抗したが、最後は自分からスカルスカーの上で腰を振っていたらしい。ウットリした顔でな」


 男を寄せ付けないアマゾネスさえ、陥落させてしまうとは。

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