第18話 姫騎士は、シックスパック

 女騎士のヨロイが、カメレオン型魔物の舌によってペリペリと剥がされていく。


 カメレオンに、女騎士を傷つける意図はなさそう。おそらく、食べるのに邪魔なのだ。腹を擦っているところから、繁殖のためかもしれない。しきりに腹を撫で回している辺り、苗床としての質を探っているのだろう。


 母体として体内に卵を産み落とされるなんて、想像したくないが。


「離せ下郎!」


 必死で抵抗するが、その度に女騎士はヨロイをむしり取られる。とうとう女騎士は、インナーだけにされてしまった。


 ひときわ大きなカメレオンが、女騎士のインナーを脱がせにかかる。あれが親玉だろう。コイツがなにをするのか、なんとなく想像ができた。


 他のカメレオンたちは、脇の下や内ももを舐め回している。女騎士をくすぐって、弱らせているのだ。


「くふう、ん!」


 女騎士も抵抗しているが、鼻から息が抜けている。たくましさの割に、くすぐったがりなのかもしれない。


「騎士様が、攻撃されています」


 できることなら、人との接触は避けたい。とはいえ、見捨てるわけにもいかなかった。


『捨て置け……といっても、助けるのであろう。好きにせい』


「ありがとう、レーやん」


 わたしは、モンスターに飛びかかる。カメレオンの目を潰した。


「炎では、ダメですね」


 ロッドに炎魔法をかけようとして、止める。


 沼地と言えど、ここは生い茂ったジャングルの中だ。


『凍らせよ。それか氷の刃で!』


「はい。アイスカッター!」


 ロッドに、氷属性のカマを取り付けた。

 女騎士を拘束している舌を、氷属性のカマで切り刻む。


「隠れていてください」


 わたしは女騎士に、ウルフの皮でできた寝具用の布切れを放り投げた。


「すまん!」


 女騎士が、茂みに隠れる。追ってきたカメレオンの首を、大剣で跳ね飛ばす。


 親玉のカメレオンが舌を出して、わたしのロッドを封じた。


 引っ張っても、取れそうにない。


「力比べですか。このわたし相手に」


 声をかけても、カメレオン型魔物は目をグリグリ動かすだけで反応がなかった。


「自分が生態系の王者だと言わんばかりの、態度ですね。わかりました。どちらが頂点にいるのか、わからせて差し上げましょう」


 ロッドを拘束されたまま、わたしはカメレオンの魔物に飛びかかる。


 接近してくると思っていなかったのか、カメレオンは反応が遅れた。舌でわたしを振り回そうにも、わたしの加速のほうが早い。


 ロッドで、カメレオンの目を潰す。続いて口を。


 傷ついたカメレオンは、背景に擬態した。死角から、わたしに襲いかかろうとする。


 だが、そこにわたしはもういない。


「ついさっきまでいた存在を、もうお忘れですか?」


 代わりに、完全武装に戻った女騎士が。


「ダメージは五分です。あとはお願いしますね」


 わたしはカメレオンの攻撃を避けて、女騎士に任せた。


「うむ。助かる。せやああ!」


 女騎士の持つ紅蓮の刃が、カメレオンの首を跳ね飛ばす。


「助かった。私はカチュア・コンラッド」


 剣を治め、女騎士カチュアは握手を求めてくる。


「わたしはフォル……フォトンです」


 あやうく、本名を名乗るところだった。


「私は西にあるロプロイ王国の騎士だ。第二テンプル騎士団長なんだよ」


「なるほど。プロテイン騎士団なんですね」


「ロプロイ・テンプル騎士団だ」


 西ロプロイ王国には、大きな騎士団がある。あそこは世界でも珍しい、女帝国家だ。


「礼がしたい。ロプロイまで同行してもらえないか? 兵士も回収したいし」


「わかりました。カチュアさん」


「呼び捨てでいい。フォトン」


 直接ゼム将軍のもとへ向かうところだったが、カチュアに同行する。


「おお。カチュア様。そちらは」


 他の騎士団は、魔物の撃退が完了していた。


「彼女は、冒険者のフォトンだ。二人で話したいから、お前たちは私たちと距離を置きつつ、周囲の警戒を怠るな」


「はっ」


 騎士隊が分散し、沼地周辺の魔物撃退に向かう。


「なにの調査なのです?」


「ゼム将軍の指揮するネロック王国軍の先発隊が、この地に魔物とともに潜伏していると、報告があったのだ」


「ほう」


「ロプロイとネロックは、長年膠着状態にあるのだ」


 おお。これは、これは。渡りに船というか、ご都合主義というか。

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