第16話 怠慢な世界樹に鉄拳制裁

 魔王が消えたことで、森が浄化されていく。


『これで数億年は死体蹴りが続くじゃろう。いい気味じゃ』


 清らかさを維持すればするほど、邪悪な魔王サールジンの魂は傷つくという。ならば、もっと美しい森として活動してくれることを願うばかり。


「ん? なんでしょう?」


 眼前に、大木が生えてくる。幹から、顔らしき模様が。


『私は、森を守る世界樹。この度の働き、実に見事だ。闇の住人とは言え、感謝する』


 世界樹と名乗る大木が、わたしに礼を言ってきた。 

 わたしは、樹精の顔面にケンカ蹴りを食らわせる。

 樹精の目の位置に、靴底がめり込む。


『な、なにを!?』


「こんな自体に陥ったのは、元々あなたの落ち度が原因です。森の管理者なら、もっと魔王を警戒すべきでした。日和見主義を気取っていて、このザマです。反省なさい」


 さらに、わたしは樹精に鉄拳制裁を浴びせた。


「お礼なんかより、犠牲者や精霊たちへの謝罪が先でしょう」


 そのせいで、どれだけの犠牲が出たのか。


『……申し訳ない。猿人だけではなく、別の魔王の力も受け、手も足も出なかったのだ』


 おそらく、ゼム将軍のことだろう。


「こうなったのは、あなたの責任です。反省の心があるなら、この地を二度と穢されるこののないよう、永遠に浄化をし続けなさい」


『心得た。お前に渡す品があったのだが』


「いりません。わたしは故郷と関連の深いこの森から、闇の勢力を排除しただけ。それだけが、わたしにとっての生きがいです」


『ならば、これを持っていくがよい』


 樹精が、小さな宝珠を吐き出す。


「いらないといいました」


『世界には、必要なはずだ。お前の戦闘力を底上げする、精霊のオーブである。武器に取り付けるがよい』


 これがあれば、筋肉攻撃が効かない相手にも物理的ダメージが通るという。


「ありがたくもらっておきます」


『礼には及ばぬ。謝罪の品であるからな。では、さらばだ』


 樹精の顔が消えた。

 何者かが、馬でこちらに向かっている。おそらく騒ぎを聞きつけたギルドか、王都の騎士団だろう。

 ここはギルドへの報告のため、プルトンまで下がるか。

 盗賊団の馬を駆る。近づいてくる騎士団を避けるように、遠回りでプルトンの街へ戻った。


『お主、めちゃくちゃじゃのう?』


「森を好き放題させた、あの樹精が悪いのです」


 彼のせいで、わたしも病魔に侵された。その責任は果たしてもらう。


「無事でしたか」


 リカは無事に、父である鍛冶屋と再開できたようだ。


「ありがとうよ、フォトンの嬢ちゃん! あんたは娘の命の恩人だぜ!」


「いえいえ。弓矢をありがとうございます。リカ、あなたもスカートの塗料、ありがとうございました」


 続いて、冒険者ギルドへ。


「フォトンさん、大活躍ですね! 麻薬組織壊滅および、さらわれた鍛冶屋の娘さんの救出まで。おまけに、森を支配していた魔王まで討伐してしまうなんて!」


「どうして、そのような事態に?」


 魔王討伐の報告など、こちらはしていない。


「樹精様直々に、ギルドへ報告が入りました。うちにはエルフの従業員がいるので、森の声が聞き取れるのですよ」


……あのやろう。


 殴ったお返しに意趣返しをしてきたか。もう一発殴っておくべきだった。


「フォトンさん、どうかなさいましたか?」


 わたしは「いえ」と平静を装う。


「できれば、魔王討伐はご内密に」


 あれは、森の精霊がやったことにする。素性を隠している立場上、ヘタに目立ちたくない。


「ですが、名前を売ればより高ランクの依頼を受けられますが」


「短時間で、急成長し過ぎなのです。もっとじっくりを標的に近づきたいので」


「わかりました。では、そのように手配しますね」


「よろしくお願いします」


 ここは、早々と出ていった方がよさそうだ。


 わたしは、宿舎に駐めてあった馬に乗る。


「待ってください、フォトンさん!」


 受付嬢が、わたしのもとまで走って追いかけてくる。


「騎士団長のフェターレ王子が、貢献した冒険者に謝礼をといっていたのですが」


「あなたの顔を見ないことが、なによりの謝礼だとお伝えください」


 馬を走らせ、別天地へ向かうことにした。


『せわしないのう、フォルテよ』


「いいでしょう、別に。これでも食べて、おとなしくなさい」


『おお! メープルいちご味ではないか。気が効いておる!』


 買ってきた名物のカップアイスを、魔王レメゲトンに差し出す。




(第二章 完)

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