第15話 魔王瞬殺。奥義【アクト・オブ・キリング】
「あなたの目的は?」
「知れたことでしょう? マッスリアーニの没落ですよ」
本物の猿人サールジンは、悠々と語る。
辺境マッスリアーニは、闇の勢力にとっては障害でしかない。
かつての父も、わたしが生まれる前までは果敢に闇の住人相手を撃退していたという。
わたしが病気になってしまったばかりに、父はその腕を振るう機会も減った。
「邪悪を浄化してしまうこの森を支配し、麻薬を生成して住民を堕落させ、闇の住人にとって脅威だった忌まわしき辺境マッスリアーニの地を弱体化させる作戦でした。なのに、あなたがすべてを台無しになさった。これは許されざる行為です。バツとして、あなたには苦痛しか伴わない死を差し上げましょう」
両手で天を仰ぐ姿は、まるで神にでもなったかのよう。
「ネクロマンサーのゼム将軍と手を組み、王都もろとも壊滅させようとしたんですね?」
「ええ。彼が王都を、ワタクシがマッスリアーニを滅ぼす算段でした。あなたを倒して、今度こそマッス――」
相手が話し終える前に、わたしは猿人を殴り飛ばした。
小屋が、あとかたもなく吹き飛ぶ。
わたしを苦しめた病魔の製造元も、この森だろう。
ならば、楽には殺さない。
「い、痛い! めちゃくちゃ痛いぃ!」
「なぜ? あなたにとって、苦痛は快楽と等しいのでしょう?」
「そんなワケ、ありませんよ! 痛いものは痛いです! どうしてワタクシが、人間ごときの攻撃にここまでの苦痛を!」
ホホを押さえながら、魔王サールジンが怯えだす。
「怒りは、魔王さえ凌駕するのです。愛するマッスリアーニを穢すものを許さない、わたしの怒りです。この怒りは、マッスリアーニの代わりに」
わたしは、猿人のアバラを蹴ってへし折る。
「ぬごおおおお! なぜです!? なぜ神に等しいワタクシが、人間から攻撃を受けて、回復できないのです!? まさか」
『うむ。我が阻害しておる』
こちら側に味方する魔王レメゲトンが、サールジンの治癒魔法を妨害しているのだ。
『もっとも、森がもうお主を許さんとさ』
「森が、再生しているというのですか!?」
『左様。我が、もともとこの森に住んでおった精霊共を呼び戻したのじゃ。お主は、前からの住人によって、殺されよ』
「バカな! 彼らに何ができると言うのです!?」
『わからぬか? お主にかかっておる
「な、そんな!」
猿人の身体から、邪悪な気配がかき消えていく。魔王としての膨大な魔力が、森に吸われているのだ。
魔王の持つ魔力を吸収して、森が恐るべき速度で再生していく。
その度に、魔法はみるみるしぼんでいった。
「ええ。ですから、あなたには死より恐ろしい恐怖を与えましょう」
「な……」
「くらいなさい。ダークプリーストの奥義を。【アクト・オブ・キリング】」
わたしがスキル名を発すると、魔王の足元から女性の骨が。骨は猿人の足首を掴み地面へ引きずり込もうとする。
「これはなんです!?」
猿人の足元は、奈落に繋がっていた。暗く、底が見えない。
「あなたに殺された者たちの、手です。あなたはこれから、彼らが味わった苦痛を追体験するのです」
犠牲者は、伯爵の息子が殺した女たちだけではない。森の民まで含む。その体験数は、もう億や兆では済むまい。
「離しなさ……い! いいいいいっっぎいいいい!」
手の骨は猿人の足に食い込み、激痛を与えていた。さらに、猿人の肉体をかきむしり、無理矢理に引きちぎっていく。
「いいえ。それは一生外れません。魂のレベルであなたの中へ侵食していきます。あなたはこの森で永遠に魔力を座れ続け、永遠に終わらない死体蹴りを味わうのです」
「助けてください! こんなの、痛すぎます! 助けてください!」
ちぎれた指で、猿人はわたしに助けを求めた。
「あなたは、犠牲者の悲鳴を聞いて、やめてあげたことがあるんですか?」
猿人の手を踏み潰して、今度こそ奈落へ叩き落とす。
「あががあああああ!」
奈落が消え、後には美しい森だけが残った。
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