第13話 幕間 麻薬密売

 愛しのフォルテを探すのも大事だが、ここ最近の王都周辺の街で起きている怪事件も捜査せねばならない。


 念のため、配下を二人連れてきた。


 茜色の着物を着た東洋人女性は、ササミという。反りの入った刀を、腰に携えている。


 もう一人は、アブラーモという男性だ。ゴツい見た目に反して、拳銃を使いこなす。


 フェターレは、プルトンを騒がせている薬草摘み連続殺人事件に、麻薬密売が関係しているとの情報を掴んだ。


「クーデ伯爵、つまりあなたは、麻薬事件には一切関与していないと主張なさるおつもりなんですね?」


 冒険者ギルドの前まで連れてきて、伯爵を尋問をする。


「無論です、フェターレ王子。ワタクシは清廉潔白でございます。ダメリーニの領地で麻薬など」


 首謀者と思しき人物は、口を割らない。


「ボクは今、王子としてこちらにうかがったわけではありません。王都ダメリーニ騎士団の団長として、あなたに問いかけています。事実をお話いただけないなら、王都より厳しき裁きが言い渡されます」


「秘密警察ですか。いくらあなたの権限といえど、ワタクシを問い詰めるいわれはないはずですぞ」


 伯爵は、ふてぶてしい態度をとる。

 これでは、すべてがうやむやにされそうだ。

 こちらに向かって、走ってくる馬が。


「クツワに掲げられた紋章は、ここら一帯を荒ら盗賊団のものでござる」


 ササミが、馬を指さす。

 しかし、馬にまたがっているのは少女である。野盗の仲間とは思えない。


「やりますかい?」


 銃士アブラーモが、拳銃を構えた。


「待って、撃たないで!」


 馬に乗っている少女が、両手を上げて叫んだ。


「王子! あれは行方不明だった、うちの娘だ。殺さないでくれ!」


 鍛冶屋から中年男性が飛び出し、フェターレの腰にしがみつく。


「銃をおさめよ、アブラーモ。頭目らしき男が縛られて引きずられている。おそらく、首謀者を連れてきたのだ」


 長時間引きずられていたのか、頭目がボロボロになっている。

 アブラーモが銃をしまった。


「リカ!」


「お父ちゃん!」


 少女は鍛冶屋の男性と、抱き合う。


「なにがあった?」


「この泥棒に襲われたんですが、冒険者の女の人に助けられました。助けた人が、これをギルドに見せろと」


「確認させてもらう」


 少女が、書類を見せた。


「ほう。これで、具体的な取引先はわかりました。伯爵、やはり主犯は、あなただ」


「なにを根拠にそんな」


「この独特の香りを放つインクは、あなたの屋敷にしか存在しない」


 フェターレは伯爵をギルドに呼ぶ前に、伯爵邸を家探ししている。しかし、何も出てこなかった。


 しかし、決定的証拠は、この少女が見つけてくれたのである。


「どうしてそのインクの香りが、この取引書類から漂っているのです?」


 このインクを使用したのは、おそらく信用のため。


 自身の管理する麻薬であると証明するために、クーデ伯爵はやむおえずこのインクを使わざるを得なかった。


 それくらい、信用が必要な相手と取引していたのだろう。


「筆跡まで、間違いないのでござる」


 ササミが、文面を見る。


「詳しくは、王都にて話を聞かせてもらいます。そいつを連行しろ」


 配下二人が、盗賊の頭目の縄を掴もうとしたときだ。

 フェターレの目の前で、頭目が伯爵の銃で撃ち殺された。


「くう、ヘタレ王子と思って油断したわ! 死ね!」


 伯爵の銃から、弾丸が撃ち出される。

 こちらに向かってきた弾を、フェターレはサーベルで弾き飛ばした。


「な!?」


「成敗」


 フェターレが、配下二人に指示を出す。


 ササミが伯爵のノドを斬り、アブラーモが心臓を撃ち抜いた。


「キミを助けた女性というのは?」


「まだ魔物と戦っています! 魔物はゴリラみたいな見た目で、腕力もすごくて! でも、その女性冒険者もめちゃ強いの! 盗賊団をあっという間にやっつけちゃって!」


 その冒険者はきっと、フェターレが探している女性に違いない。

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