第8話 ダークプリースト フォトン

 わたしのダークプリーストは、戒律が悪の僧侶である。いわゆる、【破戒僧】だ。肉食も色欲もガマンしない。とはいえ、色欲なんてわたしにはないが。格闘と治癒魔法を得意とする。ソロでの活動がメインになるだろうから、自分でなんでもできるタイプがいい。


 れっきとした聖職者になりたかったが、それでは魔王が浄化されてしまう。目的が目的なので、他人を寄せ付けたくもなかったし。


「【契約精霊】までいらっしゃるなんて、かなりな実力者だとお見受けしますが」


「こちら、契約した精霊の……」


 名前、どうするか。


「本名のレメゲトンで登録は、ヤバいですよね?」


『我の呼び方なんぞ、レムでよい。お主と融合してしまったからのう。なんならかわいらしく、「レムたん」とか』


「では【レーやん】で」


『……うむ。それでよい』


 わたしが提案すると、レムはあっさりと引き下がった。


『女よ。今後、我は【レーやん】と呼ぶがよいぞ。主に、魔法の調節を担当しておる』


「ほへえ。そちらさまも登録しておきますね。よろしくおねがいします」


 受付嬢が、登録業務を続ける。


「適当ですね?」


『威厳のある名前にすると、後々面倒になるからの。それに、少しふざけた名前のほうが動きやすい』


 しょうもないプライドは捨てろ、というわけか。それは、こちらも心得ている。 


「依頼書はあちらに。ただし今は最低ランクなので、簡単なお仕事しか――」


「魔物討伐を受けられるだけ、こちらに回してください」


「は、はい。お気をつけて」


 わたしに圧倒されたのか、受付嬢はわたしが受けられる依頼をすべて回してきた。


「魔物討伐と、素材回収ですか。問題ありません」


 これなら、すぐにランクも上がるだろう。仕事が増えれば、可能なことも増えていく。有力者に近づくことも、容易になってくるだろう。


『してフォルテよ。令嬢として、ゼム将軍のもとに直接乗り込むのはダメなのか?』


 魔王レメゲトンが、わたしに話しかけてきた。この会話は脳内会議だ。つまり、他の人には聞こえない。


「それでは、報復になりません」


 まずは、将軍の手足をもぎ取っていかねば。

 敵は、ゼム将軍だけではない。彼に味方する国も、排除していく必要がある。

 ゼム将軍の周りを囲む輩を蹴散らし、将軍に味方をすれば恐ろしいことになると知らしめるのだ。


「それに、死んだはずのフォルテが動いていると知られれば、マッスリアーニ家に危険がおよびます。それは避けなければなりません」


 病魔が去ったのは、あくまでも魔王の仕業でなければ。


 フォルテ・マッスリアーニは、普通に病死したのだ。もう、この世にはいない。


『うむ。ではその手はずで行こうぞ』


 こうして、魔王の力を受け継いだ冒険者、フォトンが誕生した。


「あとは、武器ですね。武具類を売っているお店を知りませんか?」


「でしたら、そこの角を曲がってすぐのところに、鍛冶屋がございますよ」


「ありがとうございます。レーやん、行きます」


 わたしはギルドを去り、鍛冶屋へ。


『意外だのう。【ダークナイト】を選ぶとばかり」


「魔法剣士系のジョブですよね? それだと武器への依存度が上がって、筋肉が宝の持ち腐れになります」


 ダークナイトくらいなら、なろうと思えばなれる。とはいえ、武器や魔法に依存したくない。なので、魔法剣士系の職も避けた。攻撃は主に、筋肉でいく。華麗に剣で切り裂くのではなく、直接拳を叩き込む。


 だが、毎回ザコ相手に全力パンチ、というわけにはいかない。


 鍛冶屋に入ると、金属製のヨロイや剣が、ズラリとわたしを出迎える。まるでわたしの筋肉と、張り合っているかのようだ。思わず胸筋に力が入る。


 防具は動きやすさを重視し、レザーアーマーにとどめた。金属製の肩当てが、左肩についている。あとは、拳足を守るための手甲と具足を。


 あとは武器である。わたしの筋肉は、何を求めているのか。


 どれも買えるが、なにかが違う。ビビッとこない。


 作業場も、覗いてみる。


「……これ、いいですね」


 ただの棒っ切れを、わたしは職人からひったくった。


『それは、【火かき棒】ではないか』


「プリーストは、武術の嗜みも備えています。筋肉メインで戦うんですから、これくらいでいいのです」


 サイズも長さも、ちょうどいい。


「それは売り物じゃねえよ。重てえし、使い物にならん」


 やはり、職人に武器としての使用を止められる。


「よいのです。あなたのお店では、これが一番鍛えられています。わたしにはわかります」


 おそらく、どの武器よりも頑丈にできているだろう。


「すげえ目をしてやがる。たしかにこのは、長年火にさらされてらあ」


「では、これを売ってください。あなたの宝物だというなら、あきらめますが」


「いいってことよ。持っていきな。もっといい武器が手に入ったら、そいつは捨てても構わねえ。なんなら、武器用に作り替えてやらあ」


「無用です。先っぽだけ、いりません。フンっ!」


 わたしは、火かき棒の先を切り捨てた。


 ヒュンヒュンと振り回し、近くにあった試し切り用のカカシに叩き込む。


 火かき棒による突きを食らって、カカシが弾け跳んだ。もう、あとかたもない。


「とんでもねえな。火かき棒でそんなに攻撃力が出せるなんて」


「では、買い取ります」


「金はいい。防具は買ってもらってっからな。おまけでやるよ」


「ありがとうございます」


 武器が決まったところで、魔物狩りに向かう。

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