第二章 マッチョ令嬢、報復の旅
第7話 冒険者フォトン誕生
「はっ」
フェターレ王子は、見知らぬ天井で目覚めた。
自分はたしか、愛するフォルテを守ろうとして、巨大な物体が落ちてきた風圧で気を失ったはず。
ただの衝撃波で気絶するとは。一国の王子として情けない。
「それより、フォルテは? 我が愛しのフォルテ!」
「フォルテお嬢様は、お亡くなりになりました」
喪服姿のメイドが、王子に告げた。
一家総出で、葬儀の準備を始めているという。
「バカな!? では、ボクが見たフォルテは誰だったのだ!? 彼女が、ボクを窮地から救ってくれたのだろう!? ベッドに寝かせたのも、きっと我がフォルテだ」
フェターレのベッド脇に、軍服が添えられていた。きれいに洗って、干してある。
「見間違えでは、ございませんでしょうか?」
「たしかに、あの姿はフォルテとは似ても似つかない。だが、ボクが毎年あげている花の香り、あれは紛れもなく、ボクがフォルテにあげた『エンジェルレモン』にほかならない」
エンジェルレモンの花を送ることは、永遠の愛を誓うという意味を持つ。
フェターレは、愛するもの以外にエンジェルレモンを送ることは絶対にない。
婚約者であるゼム将軍の娘にだって、送ったことはないのだ。
「どこへフォルテを隠した? なにか、言えない事情でもあるんじゃないのか?」
「いえ、我がマッスリアーニは、隠し事など」
「ならば、ご両親とお話させていただきたい。不躾なのはわかっています。ですが、なにとぞお目通りを」
メイドに敬意を払い、どうにかマッスリアーニ辺境伯に頼み込む。
「承知いたしました。こちらへ」
服を着替えて、マッスリアーニ辺境伯と話をすることに。
だが告げられたのは、フォルテの死亡報告だった。
自分が持ってきた薬は、間に合わなかったのである。
フェターレは、まだ納得できない。
死体と、対面できなかったからだ。
「よくわかりました。葬儀に参列いたします。準備をしてまいりますので、この辺りで」
帰路の中、フェターレは庭に、奇妙な戦闘跡を見つけた。あれは、死体を片付けた跡だろう。戦場でよく見た。
さらに歩くと、わずかな繊維片を見つける。
「この香りは」
間違いない。自分が渡した、エンジェルレモンの香りである。しかもこの繊維は、登山着の生地だ。フォルテは、どこかへ向かったのだろう。
フォルテはなにか、危険なことをしようとしているのでは?
まさか、この家に嫌がらせをしている、ゼム将軍を直接叩くつもりでは?
だとしたら、早く追いつかねば。
自分ができることは、少ない。
それでも、なにかの役に立てるはずだ。
*
「うおっ」
『どうしたのだ?』
「ちょっと寒気が」
『何事もなければよいがのう。着いたぞ』
わたしはさっそく冒険者ギルドへを求めて、近くの街に到着した。
プルトンの街は畜産が盛んなためか、肉屋の屋台が多い。あちらは牛、こちらは鶏の串焼きが並ぶ。
以前のわたしなら、肉と血液のニオイで卒倒していただろう。
今は、串焼きを買い食いするくらいにかぐわしい。
「魔王としての威厳が、まるでありませんね」
わたしは、肩に乗っている小悪魔に声をかけた。
彼女こそ、わたしを強靭な肉体へと作り替えた「魔王 レメゲトン」である。これで魔王というのだから。
『いやあ。この状態でも自由に動けるのはええのう』
手のひらサイズの姿が、かなり気に入ったようだ。
「食べさせなくても、よいので? 一度喚び出した召喚獣は、管理も大変だと聞きますが」
『気遣い無用。栄養は、お前から直接もろうておる。我をそのへんの魔物と一緒にするではない』
わたしの食欲は、彼女の欲求でもある。
冒険者ギルドに到着した。
スカートのスリットから覗く足に、冒険者たちが釘付けになっている。
男性冒険者たちが、口笛を吹いた。
だが、わたしが視線を向けた途端に黙り込む。
気がつけば、並んでいた者たちまでわたしを避けていた。
ちょうどいい。ササッと受付で登録を済ませるか。
「田舎から出てきた、フォトンといいます」
「ダークプリーストですか。レアな職業ですね」
受付嬢が、にこやかに応対してくれた。
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